キャリアコンサルタント国家資格の登録試験機関および更新講習実施機関である日本キャリア開発協会(JCDA)の大原 良夫理事長と佐々木 好事務局長にインタビューをおこないました。
これからの社会で、キャリアコンサルタントの役割はより求められるものになっていきます。その重要性や、今後さらにキャリアコンサルティングを普及していくためにはどうするべきなのかを伺いました。
お話を伺ったのは
大原 良夫
特定非営利活動法人日本キャリア開発協会 理事長
株式会社日本マンパワーにてキャリアカウンセラー養成講座の開発に従事するなど、日本でのキャリア開発支援普及に尽力する。
佐々木 好
特定非営利活動法人日本キャリア開発協会 事務局長
外資系企業、国際機関での勤務を経て、CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)資格を取得。国内外でキャリアカウンセリングの普及に努める。
▼もくじ
・日本キャリア開発協会(JCDA)とは
・キャリアコンサルタント活躍の場
├企業におけるキャリアコンサルタントの活躍
├就業が難しい方への支援も重要な役割
├個人と企業、双方への支援が重要
├教育現場でのキャリアコンサルタントの活躍
└キャリアコンサルタントが活動領域を広げていくために
・キャリアコンサルタントとして活躍する人の共通点
・これからの日本で求められるキャリアコンサルティングとは
├キャリアコンサルティングを浸透させるための課題
└より多くのキャリアコンサルタントが求められる
・キャリアコンサルタント資格取得を目指す方へのメッセージ
日本キャリア開発協会(JCDA)とは
鈴木(インタビュアー。「BrushUP学び」を運営する株式会社パセリ代表取締役)
本日はよろしくお願い致します。
まずは日本キャリア開発協会(JCDA)がどのような協会なのか、お伺いしてもよろしいでしょうか?
大原理事長
当協会は、キャリアカウンセリングの資格であるCDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)の認定機関として発足しました。
当時の日本では、ビジネスパーソンのキャリアカウンセリングというものがまだあまり注目されていませんでした。 そんな中でキャリア開発分野の世界的な専門団体である全米キャリア開発協会(NCDA)から支援を受けながら、日本国内で先進的なキャリアカウンセリングを普及させて参りました。
現在のJCDAは2万人ほどの会員数となり、キャリアコンサルタント国家試験の実施団体としても活動させて頂いています。
キャリアコンサルタント活躍の場
鈴木
2万人はすごいですね。こういった団体では最大規模かもしれません。
貴協会の貢献もあってキャリアコンサルタント国家資格が誕生し、多くの方が取得されたということが成果として表れているのだと思います。
このように多くの方が会員となられているのは、キャリアコンサルタントの働く場・活躍の場が広がってきたということでもあるのでしょうか。
大原理事長 国としてもキャリア開発に注力しており、セルフ・キャリアドックの推進(厚生労働省)など、キャリアコンサルタントが求められる場面は確かに増加しています。
参考:厚生労働省 「セルフ・キャリアドック」導入の方針と展開
私の手ごたえとしては、「会員数の伸びと比例してキャリアコンサルタントが活躍する場が増えている」とは一概には申し上げられないかもしれません。
「キャリアコンサルタント資格さえ取れば食べていける」というわけでは決してないのですが、それは他のどんな資格でも同様ですよね。
鈴木
もちろんそうですね。
企業におけるキャリアコンサルタントの活躍
鈴木
会員数の伸びは、キャリアコンサルタントという仕事への期待の大きさとも取れると思います。
非常に多くなっているわけではないといっても、以前に比べて活躍の場は広がっているという印象が個人的にはあります。
今もさまざまな分野へと拡大しているように感じるのですが、いかがでしょうか。
大原理事長
最近は企業の中でのキャリアコンサルティングがキャリアコンサルタントの活躍の場として増加してきています。
リスキリングやリカレント教育といった能力開発やタレントマネジメントが注目される中で、企業の生産性を高めるためにキャリアコンサルタントが重要な役割を担うようになっているのではないかと考えています。
これまでと比較すると、特に大手企業では従業員のキャリア開発に対する意識も変わっていっているように感じますね。
しかし、中小企業などではそこへ割くリソースがない場合も多く、キャリアコンサルタントが入っていくというのが難しいという課題もあります。
鈴木
なるほど。
昨年11月には岸田首相からリスキリングに対して5年で一兆円の予算投下をおこなうというお話もありました。
これも、企業として社内人材のスキルアップを実施していく必要があるということの証左になっていると思います。
就業が難しい方への支援も重要な役割
大原理事長
また、事情があってなかなか仕事に就くことができないという方々のキャリア支援という分野に従事するキャリアコンサルタントも徐々に増加しています。
鈴木
仕事に就くことが難しい方へのキャリア支援は、キャリアコンサルタントとしてのやりがいが大きい分野かもしれませんね。
我々も中高生や養護施設の子どもたちに対して仕事や資格のお話しをする機会があり、手ごたえを感じたことがありました。
こういった場でのキャリアコンサルタントの活躍は、社会的に求められるものだといえそうですね。
大原理事長
仕事に就くことが難しい方々が社会でご活躍いただけるよう支援することは、ある意味でNPO法人として我々JCDAが担うべき責務の一つです。
お困りの方が前に進んでいけるようなキャリアコンサルティングを提供していくということにも力を入れていく必要があると考えています。
個人と企業、双方への支援が重要
鈴木
我々もユーザー様からのご相談をお受けすることがありますが、仕事や将来に対してさまざまなお悩みをお持ちの方がいらっしゃいます。
大原理事長
人が仕事や何かの活動を通して活躍できるようになる、そんな支援というのがキャリアコンサルティングであると私は考えています。
「お金もないし時間もない、どうしたらいいのか」という時、最後に相談に乗れるのはキャリアコンサルタントになってくるのではないでしょうか。
鈴木
確かにそうですね。
世の中にそういった理解が広がることが社会的にも必要であると感じます。
佐々木事務局長
人が企業や働く現場の中で役に立つということは、その人の人生の一部分でしかありません。
キャリアコンサルタントの仕事の領域は、そういった部分はもちろんのこと、個人が生活の中で得る喜びや幸せすべてに対応するものとなります。
そのため、キャリアコンサルタントは企業をはじめとする組織や環境と個人双方に支援をおこなっていく立場であることが必要だと思います。
大原理事長
個人の方から「自分が勤める企業の中で自身のあり方、現状や将来に対するもやもやした思いを相談するのは難しい」というお声もありました。
誰かにそんな不安を相談したいというニーズは確かにあるのですが、そういった方々に対してキャリアコンサルタントに関する認知が進んでいないという課題もあります。
例えば、BrushUP学びがユーザー様を支援している「資格を取得する」ということに関してもそうですね。
将来に対して課題を感じていて、それを解決するために何か資格を取りたいが、どんな資格を取ればいいか分からないとお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。 そういった方が、今どんな状態で今後どうなりたいのかをご相談頂くことで、どんな資格を取得するべきなのかを提案することができると思います。
そういったことを悩んだ時に相談する相手として、すぐにキャリアコンサルタントを想起できるようになっていけばと考えています。
教育現場でのキャリアコンサルタントの活躍
鈴木
企業というフィールドでキャリアコンサルタントの活躍の場が増えているというお話がありましたが、教育の分野ではいかがでしょうか。
大原理事長
教育の中でもキャリアコンサルティングが求められる場面は増えていくと思います。
学校教育の中でもキャリア教育がフォーカスされています。
なぜならば、若年層のキャリア構築は学校での進路指導抜きで語れないからです。
キャリアコンサルタントの資格保有者が学校の先生と協力して教育の現場に関わっていくこともどんどん増えてきているように思います。
現在、学校教育の場でおこなわれているキャリア教育には私は2種類あると考えています。
1つ目は小中学校の子どもたちが社会人になるためのキャリア教育、2つ目は高等学校や大学での就職活動を支援するキャリア教育です。
これからのキャリア教育には「社会環境が変わっていく中で、直面した問題に対してどう向き合うか」を考えられる社会性を育てていくことも求められると思います。
その社会性を養うために、外部のキャリアコンサルタントが重要な役割を果たすのではないかと期待しています。
鈴木
我々も子どもたちのキャリア教育支援に携わっているので、その重要性を感じます。
子どもたちに対してさまざまな職業の大人がそれぞれの仕事の話をする機会を作ったのですが、その中で自分の夢を話してくれた子がいました。
その言葉を聞いた時に、「将来にはさまざまな可能性がある、自分もやりたいことを目指せる」ということを伝えるのも大切な教育であると感じましたね。
キャリアコンサルタントの方々がその専門性を活かして子どもたちの可能性を広げるような活動をやっていただけると、学校教育の価値もより高まっていくのではないかと思います。
大原理事長
私共も学生の方へのキャリア支援を広めていけたらと考えています。
学生に対しておこなうキャリア教育は、将来の社会人、企業の社員を教育することにもつながっています。
キャリアコンサルタントの活躍の場は、社会のいたるところにあるのではないかと思いますね。
キャリアコンサルタントが活動領域を広げていくために
鈴木
既にキャリアコンサルタントが活躍している場はありますが、まだ届いていない場所も多い。言い換えれば今後活躍できる場も多いということだと思います。
大原理事長
私たちが持つ専門性をご存知ない方も多くいらっしゃると思いますから、さらに認知を広げていかなくてはならないと感じています。
実際にこの数年間はセミナーや無料のオンラインキャリアカウンセリングを実施するなど、一般の方にも知ってもらえるよう力を入れてきました。
鈴木
キャリアコンサルタントの専門性に対する社会的な認知を広げることが重要ということですね。
確かに税理士や社労士のように専門性を認められるようになれば、社会における考え方も変化していくかもしれません。
大原理事長
はい。
先ほどお話ししたように企業内でのキャリアコンサルティングは浸透していっていますが、キャリアコンサルタントの専門性に対しては理解が進んでいるとは言い難い状況です。
特に中小企業では、社内でキャリアコンサルタントを確保しようと考えているところはまだまだ少ないように感じます。
鈴木
そういったところでは、経営者の意識改革も必要かもしれませんね。
佐々木事務局長
経営者の意識を変えていくためには、経営者の方とお話しし、現在置かれている状況やお持ちの課題に対して「キャリアコンサルタントがどのように貢献できるのか」をお伝えしていく必要があると考えています。
キャリアコンサルタントとして多くの顧問先企業を持って活躍している方は、経営者の方と実際にお会いして信頼を得ていることが多いように感じます。
鈴木
今後キャリアコンサルタントがさらに活躍の機会を広げていくためには、経営層に対するヒアリング能力やプレゼンテーション能力を磨いていくことも必要になってくるのかもしれませんね。
大原理事長
そうですね。
キャリアコンサルタントとして活動されていても、企業のことをよく知らないという方もいらっしゃるようです。
キャリアコンサルタント資格を取得される方は、「誰かの力になりたい」と対人支援に対して熱意を持っている方が多い印象があります。
それはもちろん素晴らしいことですが、その思いに加えて企業や経営者に対してもアプローチできる能力も重要になってくると考えています。
鈴木さんのおっしゃる通り、企業としてキャリア開発へのニーズは高まっています。
しかし、企業からキャリアコンサルタントの価値に対する理解はまだ薄く、溝がある状態といえるでしょう。
その溝を埋めていくため、私共はキャリアコンサルタントが貢献できることをさらに発信していく使命があると感じています。
鈴木
確かにキャリアコンサルタントを認定する団体として、そういった認知拡大をしていくことは必要かもしれませんね。