キャリアコンサルタント国家資格の試験実施および登録機関である「特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会(CCC)」の深谷 潤一理事にインタビューをおこないました。
働き方やキャリア形成に変革が進む今、キャリアコンサルタントはどんな場で活躍できるのか、また、活躍できるキャリアコンサルタントになるためにはどうするべきなのかを伺いました。
お話を伺ったのは
深谷 潤一
特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会 理事
NPO法人ICDSで理事長を務め、若者のキャリア支援に携わる。 同法人ではそのためのキャリアコンサルタント養成もおこない、現在のキャリアコンサルタント国家資格の前身である「ICDSキャリア・コンサルタント検定」を実施。キャリアコンサルタントのスキル向上に尽力する。 国家資格1級キャリアコンサルティング技能士。
▼もくじ
・キャリアコンサルタント資格に注目が集まる理由
├キャリアコンサルタントが過去最高人数に。その背景とは
└働き方改革がキャリアコンサルタントの追い風になっている
・変わりつつある日本の「働き方」
・学生時代におけるキャリアコンサルティング
├小学校からキャリア教育が求められる時代に
├学校内でのキャリアコンサルタント活躍の展望
└学校でのキャリア教育が進んでいる地域
・中高年のキャリアコンサルティング
├中高年にはどのようなキャリアコンサルティングをしていくべきか
└新たな文化に向き合う、意識の変革が求められる
・企業におけるキャリアコンサルティング
└中小企業におけるキャリアコンサルティングの事例
・キャリアコンサルタント養成講座オンライン化によって生まれた恩恵と課題
・キャリアコンサルタントとして活躍するには
├活躍しているキャリアコンサルタントの共通点
├人に関心を持てる人がキャリアコンサルタントに向いている
└活かせる経験、資格
・キャリアコンサルタントの資格は役に立たない?
・キャリアコンサルタントとして高収入を目指すなら
・キャリアコンサルタント資格取得を目指す方へのメッセージ
キャリアコンサルタント資格に注目が集まる理由
キャリアコンサルタントが過去最高人数に。その背景とは
鈴木(インタビュアー。「BrushUP学び」を運営する株式会社パセリ代表取締役)
2022年11月にキャリアコンサルタント登録者数が約64,000人と過去最高になったと拝見しました。
その要因や、協会で取り組んできた施策などがあればお教えください。
深谷理事
キャリアコンサルタントという資格の始まりは20年ほど前になります。
その当時から日本人の働き方や雇用の慣行といったものにパラダイムシフト、変化が訪れることは予見されていました。
社会の変化によってキャリアコンサルティングが社会的なインフラとして必要になるという仮説のもとに、制度の制定が進められていたわけです。
昨今では働き方改革などがクローズアップされていますよね。あらかじめ予見されていたところに時代が追いつき、社会的なニーズが高まったことがキャリアコンサルタントに注目が集まる要因の一つだと思います。
そういった中で、国家資格化や教育訓練給付金制度の対象となるなど政策的な後押しもあり、取得したいと考える方がより一層増えてきていると私は考えています。
働き方改革がキャリアコンサルタントの追い風になっている
鈴木
今お話に出てきましたが、ここ数年で「働き方改革」という言葉がさまざまな企業・業界で聞かれるようになっていると思います。
この働き方改革というのは、キャリアコンサルタント業界では追い風であると考えてよろしいのでしょうか。
深谷理事
もちろん追い風です。
正直なところようやくこういう時代が来たか、と思っています。
変わりつつある日本の「働き方」
深谷理事
欧米と日本では、働くことに対する考え方に大きな違いがあると思います。
アメリカでは、雇用はあくまで労働者と雇用者側の契約であり、会社の景気が悪化すれば日本でいうリストラをドライに進めていくことが一般的なんです。それこそ、1970年代でもレイオフのような言葉が良く出てきていますね。
労働者も雇用されている企業に対して帰属意識のようなものは薄く、日本のように「家族の一員」のような位置づけで考えていることはあまりないのだと思います。
労働者自身が労働市場の中でどんなスキルがあって、どんな評価のレベルなのかを常に意識をしており、自己責任であることを理解して自立しているのです。
日本の場合、企業が労働者のキャリアを長いあいだ守り、育んでくれるという文化が当たり前でした。それが従来の終身雇用制度です。
それが昨今の働き方改革を通して、欧米に近しい考え方へと変わってきたという実感があります。
ジョブ型雇用がクローズアップされているのも同じような流れを感じます。
特に30代前半くらいまでの若い方々は、欧米に近い考えをお持ちの方が多いのではないでしょうか。
逆にそれよりも上の世代である中高年は、従来の日本的な考え方から脱却できない方も少なくないようです。
日本人と欧米では労働に対する考え方が異なります。そんな異なる文化の中で長いあいだ生活してきたことが理由であるといえるでしょう。
鈴木
年齢が高い世代ほど、社会の変化への対応が難しくなるということですね。
ジョブ型雇用や副業の解禁など、労働者が自身のスキルや「自分が何ができるのか」ということを自身で突き詰める必要がある時代になっていると思います。
そういう時代においてキャリアコンサルタントは非常に重要なポジションですよね。
学生時代におけるキャリアコンサルティング
小学校からキャリア教育が求められる時代に
鈴木
これからの社会に適応していくためには、学生時代から自分のキャリアを考えるための意識づけをおこなう必要があると思います。
若年層へのキャリアコンサルティングの機会も増えていくのでしょうか。
深谷理事
そうですね。高校や大学といわず、小学校くらいからキャリア教育は必要だと思っています。
従来の日本の学びの在り方にクリエイティビティが不足しているというのが、日本経済が低迷している一因といえるでしょう。だからこそ、変化を恐れる人が多いのかもしれません。
その状況を変えていくためには、義務教育の段階から主体性を持って自分がどう生きるかを考える習慣を身につけていくことが求められます。
実際に2020年に小学校、2021年に中学校、2022年に高等学校で開始された新学習指導要領では、「主体的・ 対話的で深い学び」をテーマとして掲げています。
出典:文部科学省 平成29・30・31年改訂学習指導要領の趣旨・内容を分かりやすく紹介
企業などの組織に属し、そこに依存するような生き方は主体的とはいえません。
今まで当たり前だったその文化から脱却するべき時が来ているのです。
労働者が主体的にキャリア形成を考えていけるようにできるということが、キャリアコンサルタントに課せられているテーマでもあります。
「自分がどう生きていくか、そのためになにをやるべきか」を考えられる主体性を教育の中で身につけていくことができれば、大人になった時にビジネスの世界でもその力を発揮できるようになるのではないでしょうか。
現在活躍している将棋の藤井聡太プロも、将棋の道のために高等学校を中退して活躍している。
自分がやりたいこと、やるべきことのためには既存の枠組みを外れることも恐れないような主体性が必要なのだと思います。
鈴木
実際に活躍している若い世代の方を例に挙げて頂くと、主体的に考えることの大切さがより理解できます。
私も高度成長期に学生生活を送り、どちらかといえば先生の言うことや学校の言うことを守ることが優秀である、その枠組みの中で偏差値が高ければ優秀であるという時代を経験してきました。
しかし、日本が成長していくためには主体性を持って常識の枠をも超えていく必要があるということですね。
学校内でのキャリアコンサルタント活躍の展望
鈴木
それでは、キャリアコンサルタントが学校でのキャリア教育に関わっていく機会、つまり学校でキャリアコンサルタントが活躍する機会は今後増えていくとお考えですか。
深谷理事
そうですね。
私は増やしていくべきだと考えていて、自身のミッションとして進めています。
私の運営するNPO法人では、所属するキャリアコンサルタントが42の中学校で1名ずつ働いています。もともと高等学校でもキャリア教育に携わってきていますから、それを合わせると60校ほどで働いていることになりますね。
名古屋という地域の中ではありますが、当法人が17年かけてキャリア教育を浸透させてきた成果であると考えています。
鈴木
名古屋でそういった実績があるということは、今後さらに広がっていく可能性があるということでしょうか。
深谷理事
学校教育の中で子どもたちがキャリアについて考えられるような仕組みができていってほしいと考えています。
全国すべての学校にキャリアコンサルタントを配置するということは難しくても、少なくとも拠点ごとに各校を巡回できるような仕組みは生まれていってほしいですね。
学校でのキャリア教育が進んでいる地域
鈴木
既に自治体として学校でのキャリア教育に力を入れている地域などはあるのでしょうか。
深谷理事
北陸、東北の地域はキャリア教育に熱心な自治体が多い印象があります。
人口減少に対して危機感を抱いている自治体は、地域の中で早期から人材を育成して地元を活性化したい、新しいイノベーションを起こしてほしいと考えているのではないでしょうか。
首都である東京都でもキャリア教育は進んでいますね。