社労士と税理士の違い
社労士と税理士はそれぞれ国家資格が必要な専門家ですが、具体的な業務はどう違うのでしょうか?
下記の表は社労士と税理士の違いを簡単にまとめたものです。
社労士 | 税理士 | |
---|---|---|
仕事内容 | 労働社会保険の手続きや書類作成・提出。企業に対しての労務管理の相談。年金に関する相談など | 税務に関する書類の作成や手続き 企業や個人に対しての、税金に関する相談・アドバイス |
独占業務 | ・行政機関へ提出する労務に関する申請書、届出書、報告書、審査請求書等の作成、提出、手続き代理 ・労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類の作成 |
・税務代理 ・税務書類の作成 ・税務相談 |
年収 | 947.6万円 | 746.7万円 |
年収参考:職業情報提供サイトjobtagより
詳しく解説していきます。
仕事内容の違い
社労士
社労士の仕事は、主に労務に関する書類の作成や手続き、相談に特化しています。
企業における成功の三要素は「ヒト・モノ・カネ」の三つといわれていますが、社労士は「ヒト」に関わる専門家であると言えます。
企業の人事・労務をサポートするのが使命であり、具体的には法改正時の相談や手続き代行、社会保険業務の申請手続き、年金についての相談、就業規則や雇用規則等人に関する部分の相談にのります。
また特定社会保険労務士の資格を持っている場合、労働における紛争の相談に乗ることも業務の一つです。
社労士の就職先は主に、社労士事務所や社労士法人です。もちろん自分で事務所を立ち上げ、独立開業も可能です。一般企業で働く場合は人事・総務などの部署に務めることが多いようです。
税理士
税理士の仕事は、税務に関する書類の作成や手続き、相談に特化しています。
具体的には個人事業主などが行う確定申告のサポート、記帳代行、企業の決算のサポートや年末調整のサポート、税務関連書類の申告、税務調査の立ち合いなどが業務です。
また、税務と会計は切っても切り離せない関係にあり、企業にとって重要な「ヒト・モノ・カネ」の三つの要素の内「カネ」に関わる専門家であると言えます。そのため、税務に関わらず企業や個人に対しての会計全体の相談・アドバイスも業務の一環として行っている税理士が多いようです。事業の資金繰りや経営相談を行っている事務所も数多くあります。
税理士の就職先は、主に税理士事務所や会計事務所などの士業事務所です。また一般企業で働く場合は経理部に務めるケースが多いようです。行政書士同様、経験を積んで独立する人も多いのが特徴です。
独占業務の違い
社労士
社会保険労務士の独占業務は大きく二つです。
一つは「労働保険の申請業務と手続き代行」、もう一つは「労務に関する帳簿作成」です。労働者名簿や賃金台帳の作成や就業規則・各種労使協定の作成も二つ目に含まれます。
労務に関するコンサルティング業も、上記と合わせて社労士の三大業務の一つですが、こちらは独占業務には当たりません。
また特定社会保険労務士の資格を持っている場合、労働における紛争における各種手続きの代理も独占業務となります。
税理士
税理士の独占業務は「税務代理」「税務書類の作成」「税務相談」の大きく三つです。
具体的には、税務に関する申告(確定申告等)・申請(⻘色申告の承認申請等)・請求・不服申し立てや税務調査の立ち会いや処分に対する主張・陳述などの代理が可能です。
また、税務に関する申告書(確定申告書等)・申請書・請求書・不服申立書・計算書や明細書を納税義務者に代わって作成したり、税務に関する申告等や税務書類の作成など税に関するあらゆる相談を受けることができます。
また、税理士の独占業務は「無償独占業務」に分類されます。これはたとえ無償であっても、税理士の独占業務を資格のない人が受けることはできない、ということです。
年収の違い
社労士
厚生労働省の調査によると、行政書士の年収は約947.6万と高い結果が出ています(参考:職業情報提供サイトjobtagより)
とはいえ、平均年収に差し掛かるのは40歳になる頃であり、20代の給与は400万〜600万辺りを推移しています。また社労士事務所や一般企業に雇用されて働く場合、給与は一般企業の給与水準となるため、もう少し低くなるでしょう。独立開業した社労士は年収数百万の事務所から、数億の事務所までピンキリであり、平均年収の底上げを担っていると推測されます。
税理士
厚生労働省の調査によると、税理士の年収は約746.7万円です(参考:職業情報提供サイトjobtagより)
社労士より200万近く低くはありますが、十分高水準と言えます。また、税理士も20代の給与は400万〜600万辺りを推移しており、駆け出しの給与に大きな差はありません。また、独立開業した事務所により大きく年収が異なるのは税理士も変わりません。
試験の難易度の違い
では続いて試験の制度や難易度について比較してみましょう。簡単にまとめると両者の違いは下記の図の通りです。
社労士 | 税理士 | |
---|---|---|
試験制度 | ・学歴・実務経験・厚生労働大臣の認めた国家試験合格いずれかの受験資格が必要 ・「選択式試験」「択一式試験」の二つの形式で出題され、合格要件もはっきりと決まっている。 |
・学歴・資格・職歴いずれかの受験資格が必要 ・試験は科目選択制。必須科目2科目と、選択科目3科目の計5科目。 |
合格率 | 6〜7% | 17〜19%(※科目ごとの合格率、最終合格者の合格率ではない) |
勉強時間 | 1,000時間以上 | 2000〜3000時間 |
順番にみていきましょう。
試験制度の違い
社労士
社労士試験の受験資格は、「学歴」「実務経験」「厚生労働大臣の認めた国家試験合格」いずれかの受験資格が必要となります。
学歴 | ・大学、短期大学、専門学校、各種学校を卒業した者 等 |
実務経験 | ・労働社会保険法令の規定に基づいて設立された法人の役員(非常勤の者を除く)又は従業員として同法令の実施事務に従事した期間が通算して3年以上になる者 ・公務員として3年以上従事した者 等 |
資格 | ・社会保険労務士試験以外の国家試験のうち厚生労働大臣が認めた国家試験に合格した者 ・司法試験予備試験、旧法の規程による司法試験の第一次試験、旧司法試験の第一次試験又は高等試験予備試験に合格した者 ・行政書士試験に合格した者 |
詳細についてはより細かく設定されているため、社会保険労務士試験の公式ホームページをご覧ください。
また試験は「選択式試験」「択一式試験」の2種類の形式で行われ、この二つに合格する必要があります。試験の概要は以下の通りです。
試験の種類 | 時間 | 満点 | 問題数 | 合格基準 |
---|---|---|---|---|
選択式試験 | 80分 | 40点 | 40問 | 合計28点以上かつ各科目3点以上 |
択一式試験 | 210分 | 70点 | 70問 | 合計49点以上かつ各科目4点以上 |
試験科目は以下から出題されます。
- 労働基準法及び労働安全衛生法
- 労働者災害補償保険法(労働保険の保険料の徴収等に関する法律を含む。)
- 雇用保険法(労働保険の保険料の徴収等に関する法律を含む。)
- 労務管理その他の労働に関する一般常識
- 社会保険に関する一般常識
- 健康保険法
- 厚生年金保険法
- 国民年金法
税理士
税理士試験の受験資格には「学歴」「資格」「職歴」の三つの受験資格の内いずれかの資格が必要です。詳細は下記の通りです。
学歴 | ・大学、短大又は高等専門学校を卒業した者で、社会科学に属する科目を1科目以上履修した者 ・大学3年次以上で、社会科学に属する科目を1科目以上含む62単位以上を取得した者 ・一定の専修学校の専門課程を修了した者で、社会科学に属する科目を1科目以上履修した者 ・司法試験合格者 ・公認会計士試験の短答式試験に合格した者 |
資格 | ・日商簿記検定1級合格者 ・全経簿記検定上級合格者 |
職歴 | ・法人又は事業行う個人の会計に関する事務に2年以上従事した者括弧証明書類 ・銀行、信託会社、保険会社等において、資金の貸付け・運用に関する事務に2年以上従事した者 ・税理士・弁護士・公認会計士等の業務の補助事務に2年以上従事した者 |
また税理士資格の試験は科目選択制です。
受験する科目にはルールがあり、下記が一覧です。
科目種別 | 科目名 | 必須区分 |
---|---|---|
会計学に属する科目 | 簿記論 | 必須 |
財務諸表論 | 必須 | |
税法に関する科目 | 所得税法 | いずれかを選択 |
法人税法 | ||
相続税法 | 2科目を選択(※) | |
消費税法 | ||
酒税法 | ||
国税徴収法 | ||
住民税 | ||
事業税 | ||
固定資産税 |
※ただし「消費税法と酒税法」、「住民税と事業税」はそれぞれ両方選択することはできません。
税理士試験では、全ての科目を一度に受験し合格する必要はなく、1科目ずつ受験することが可能です。科目ごとに合否判定され、合格科目に有効期限はないので、一気に全ての合格を目指すのではなく、毎年1〜2科目を重点的に勉強して合格を目指すという方法もあります。
合格率の違い
社労士
社労士の合格率は5%〜7%台と、難易度は高めです。
受験資格が設けられていて尚この数値なので、しっかりと勉強する必要があります。また社労士試験では科目ごとに合格基準点が設けられており、1科目でも基準を下回ると不合格になってしまうのも、合格率の低さの特徴でしょう。
税理士試験と異なり科目合格の制度がないので、1科目でも落とせば翌年はまた全科目を受けなければいけません。
税理士
税理士試験の合格率は17〜19%程度です。
ただしこの数値は各科目の合格率の平均値に当たり、合格者の平均値ではないことに注意が必要です。税理士試験に合格するためには合計5科目の合格が必要となり、17〜19%の合格率の試験に計5回合格する必要があります。
一回の試験の難易度は社労士の方が高いですが、5科目の合格が必要な税理士は資格取得までより長い時間がかかると言えます。
勉強時間の違い
社労士
社労士試験に受かるために必要な勉強時間の目安は、一般的に1,000時間といわれています。
毎日3時間程度勉強したとして1年かかる計算です。
ただしこれは独学で勉強を進めた場合です。通信講座や通学講座を受講する場合、勉強に必要な時間は約700時間と言われています。
独学と違い、わからないことがあれば講師に質問できる環境も整っているので、どのように勉強するのが自分にとって一番適切かを考え、自分に合った方法を選ぶと良いでしょう。
税理士
税理士試験に受かるための勉強時間は、社労士よりも長く、大体2000〜3000時間だと言われています。5科目の勉強が必要になるのも勉強時間が長くなる要因の一つでしょう。
単純計算して、毎日3時間勉強したとしても3年近くかかります。税理士試験は合計5科目の合格が必要であり、毎年2科目を合格する、といった心づもりで挑戦することが大切です。
またこの勉強時間はスクールや通信講座を受講することによって大幅に短縮できる見込みもあります。
社労士と税理士のダブルライセンスのメリット
社労士と税理士はとても相性のいい仕事です。ダブルライセンスを取るには、どちらの試験にも合格する必要がありますが、取れば仕事の幅は大きく広がるでしょう。ここでは、ダブルライセンスのメリットについて解説します。
業務に親和性がある
税務と労務、この二つの業務は独立しているわけではなく密接に関わっています。例えば、給与や交通費、社員の使う経費といったお金に関する項目は、経理上でも扱われ、税の申告の時にも加味する項目です。
取り扱う業務が近く、関わることも多いので、ダブルライセンスを取ることで、より顧客の経営に対しての理解度が上がり、サポートできる範囲も増えていきます。
トータルでクライアントをサポートできる
前述の通り、企業における成功の三要素は「ヒト・モノ・カネ」の三つといわれていますが、社労士と税理士はこの「ヒト・カネ」のプロフェッショナルであり、商品やサービスなどの「モノ」に関することをのぞいて、トータルでクライアントをサポートできます。
企業にとって税務や労務は会社を支える大切な業務ですが、資源の投資を行いたいのは売上の要となる「モノ」の方です。この屋台骨となる税務や労務をトータルでサポートできる人または事務所である、というだけで非常に信頼できる存在になります。
経営コンサルティングとしての付加価値が高い
社労士や税理士が顧問を請け負う企業は中小企業が多く、経営についての相談が持ち込まれることも度々あります。
ダブルライセンスをとって、顧問として企業と契約を結べば、税務や会計、労働保険や社会保険までトータルでサポート出来るようになります。経営は、税務と労務ではっきりと分かれているわけではありません。
例えば、経費削減の話があれば人件費の話が絡んでくるでしょう。そんな時この案件は社労士に、この案件は税理士に、と個別に相談するのではなく、トータルで相談できる方が時間も削減できますし、話がブレません。そんな人材は企業にとって非常に貴重な存在なのです。
社労士と税理士どちらがおすすめ?
社労士と税理士のどちらがおすすめなのかは一概には言えません。どちらも重要な士業であるため、自分の適正にあった職業を選ぶことが大切です。
社労士に向いている人
社労士に向いているのは以下のような人です。
- 現在人事労務部門に勤務中の人
- 縁の下の力持ちが苦ではない人
- 人に興味がある人
- 人とコミュニケーションを取るのが好きな人
現在人事労務部門に勤務中の人はもちろんですが、人事や労務というのは華やかなフィールドではなく、企業を支える縁の下の力持ちといえます。そのため目立った仕事をしたいという訳ではなく、顧客を支えることが喜びに感じられる人が向いているでしょう。
税理士に向いている人
税理士に向いているのは以下のような人です。
- 経営に興味がある人
- じっくり長く人と付き合っていきたい人
- 正義感の強い方
- 人とコミュニケーションを取るのが好きな人
税理士は顧問契約という形で長期的に顧客と契約を結ぶ士業ですので、長期的に誰かと付き合っていくことが好きな方に向いているといえます。また経営相談を求められることが多く、客観的に企業を俯瞰し、広い視野で会社の経営を見渡せる人が向いています。また税金に関しては、時に毅然とした姿勢で顧客に意見することが求められるので正義感が強い方が望ましいでしょう。
またどちらの職も細かいお金の計算を扱いますので「数字に苦手意識がない人」である事も重要です。