社労士と宅建士の違い
まずは社労士<と宅建士の具体的な仕事の違いについて見ていきましょう。下記の表は社労士と宅建士の違いを簡単にまとめたものです。
社労士 | 宅建士 | |
---|---|---|
仕事内容 | 労働社会保険の手続きや書類作成・提出。企業に対しての労務管理の相談。年金に関する相談など | 不動産契約における重要事項の説明や、契約手続き。不動産契約の相談など |
独占業務 | ・行政機関へ提出する労務に関する申請書、届出書、報告書、審査請求書等の作成、提出、手続き代理 ・労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類の作成 |
・不動産契約における重要事項の説明 ・不動産契約における重要事項説明書への記名、押印 ・37条書面(契約書)への記名、押印 |
年収 | 947.6万円 | 496万円 |
詳しく解説していきます。
仕事内容の違い
社労士
社労士の仕事は、主に労務に関する書類の作成や手続き、相談に特化しています。企業における人に関わる業務の専門家です。
企業の人事・労務をサポートするのが使命であり、具体的には法改正時の相談や手続き代行、社会保険業務の申請手続き、年金についての相談、就業規則や雇用規則等人に関する部分の相談にのります。
また特定社会保険労務士の資格を持っている場合、労働における紛争の相談に乗ることも業務の一つです。
社労士の就職先は主に、社労士事務所や社労士法人です。もちろん自分で事務所を立ち上げ、独立開業も可能です。一般企業で働く場合は人事・総務などの部署に務めることが多いようです。
宅建士
宅建士は「宅地建物取引士」の略称で、不動産取引の専門家です。
宅建士は不動産の売買や賃貸物件の契約をする際に、契約者となるお客様に対し「登記」や「不動産の広さ」「電気・ガスの供給施設」「キャンセルのルール」など、契約には不可欠な「重要事項の説明」をすることが主な業務となります。
また宅地建物取引業を営む場合、事務所の従業員の5人に1人以上宅建士を置くことが宅建業法にて定められています。5人に1人以上の設置のため、無資格の従業員が増えた場合や有資格者が退職した場合にはすぐに補充する必要があり、必然的に需要の高い職業であるといえます。
就職先は宅地や建物の取引を行っている不動産業界の企業が主要ですが、不動産に親和性のある金融業界や建設業界に就職する人もいます。
独占業務の違い
社労士
社会保険労務士の独占業務は大きく2つです。
1つ目は「労働保険の申請業務と手続き代行」、2つ目は「労務に関する帳簿作成」です。労働者名簿や賃金台帳の作成や就業規則・各種労使協定の作成も2つ目に含まれます。
労務に関するコンサルティング業も、上記と合わせて社労士の三大業務のひとつですが、こちらは独占業務には当たりません。
また特定社会保険労務士の資格を持っている場合、労働における紛争における各種手続きの代理も独占業務となります。
宅建士
宅建士の独占業務は、全て不動産契約における業務で、大きく3つです。
1つ目は「重要事項の説明」です。これは不動産取引を行う際、契約前にお客様に契約の重要な内容を説明する業務です。不動産の登記名義や、土地建物の状態、大きさ、設備、法的な制限、抵当権等、契約にあたって重要な内容を説明します。これは不動産取引を行う場合に、ほぼ必須で必要とされています。
2つ目は「重要事項説明書への記名、押印」です。重要事項の説明時には、重要事項が記載された書面をお客様に交付することが決まっています。この書面を「重要事項説明書(35条書面)」といい、書面には宅建士による記名が必要になります。
3つ目は「37条書面(契約書)への記名、押印」です。不動産契約が合意された後の契約書(37条書面)にも宅建士の記名・押印が必須となります。
これらの仕事は全て独占業務であり、宅建士の資格を持っていない人間が行うことはできません。
年収の違い
社労士
厚生労働省の調査によると、社労士の年収は約947.6万円です(参考:職業情報提供サイトjobtagより)
平均年収に差し掛かるのは40歳になる頃であり、20代の給与は400〜600万円辺りを推移しています。また社労士事務所や一般企業に雇用されて働く場合、給与は一般企業の給与水準となるため、もう少し低くなるでしょう。独立開業した社労士は年商数百万円の事務所から、数億円の事務所までピンキリであり、平均年収の底上げを担っていると推測されます。
宅建士
宅建士の年収は、大体496万であると言われています。社労士と違い資格別の公的データはありませんが、国税庁による令和4年度の民間給与実態統計調査結果では不動産業の平均年収は457万と出ており、同業の中では少し上回ると考えられます。
平均年収に差し掛かるのは、社労士と同様40歳頃であり、20代の頃は300万〜400万辺りが平均年収のようです。各年代の平均年収は下記をご参考ください。
年齢 | 平均年収 | 月額給与 | ボーナス |
---|---|---|---|
20~24歳 | 307.8万 | 19.2万 | 77.0万 |
25~29歳 | 383.4万 | 24.0万 | 95.9万 |
30~34歳 | 421.2万 | 26.3万 | 105.3万 |
35~39歳 | 480.6万 | 30.0万 | 120.2万 |
40~44歳 | 540.0万 | 33.8万 | 135.0万 |
45~49歳 | 604.8万 | 37.8万 | 151.2万 |
50~54歳 | 648.0万 | 40.5万 | 162.0万 |
55~59歳 | 642.6万 | 40.2万 | 160.7万 |
60~65歳 | 437.4万 | 27.3万 | 109.4万 |
試験の難易度の違い
では続いて試験の制度や難易度について比較してみましょう。簡単にまとめると両者の違いは下記の図の通りです。
社労士 | 宅建士 | |
---|---|---|
試験制度 | ・学歴・実務経験・厚生労働大臣の認めた国家試験合格いずれかの受験資格が必要 ・「選択式試験」「択一式試験」の二つの形式で出題され、合格要件もはっきりと決まっている。 |
・日本国内に居住する方であれば、年齢、学歴等に関係なく、誰でも受験可能 ・四肢択一のマークシート形式。全50問。 |
合格率 | 6〜7% | 15%前後 |
勉強時間 | 1,000時間以上 | 300〜400時間 |
順番にみていきましょう。
試験制度の違い
社労士
社労士試験の受験資格は、「学歴」「実務経験」「厚生労働大臣の認めた国家試験合格」いずれかの受験資格が必要となります。
- 学歴
- ・大学、短期大学、専門学校、各種学校を卒業した者
等 - 実務経験
- ・労働社会保険法令の規定に基づいて設立された法人の役員(非常勤の者を除く)又は従業員として同法令の実施事務に従事した期間が通算して3年以上になる者
・公務員として3年以上従事した者
等 - 資格
- ・社会保険労務士試験以外の国家試験のうち厚生労働大臣が認めた国家試験に合格した者
・司法試験予備試験、旧法の規程による司法試験の第一次試験、旧司法試験の第一次試験又は高等試験予備試験に合格した者
・行政書士試験に合格した者
詳細についてはより細かく設定されているため、社会保険労務士試験の公式ホームページをご覧ください。
また試験は「選択式試験」「択一式試験」の2種類の形式で行われ、この二つに合格する必要があります。試験の概要は以下の通りです。
試験の種類 | 時間 | 満点 | 問題数 | 合格基準 |
---|---|---|---|---|
選択式試験 | 80分 | 40点 | 40問 | 合計28点以上かつ各科目3点以上 |
択一式試験 | 210分 | 70点 | 70問 | 合計49点以上かつ各科目4点以上 |
試験科目は以下から出題されます。
- 労働基準法及び労働安全衛生法
- 労働者災害補償保険法(労働保険の保険料の徴収等に関する法律を含む。)
- 雇用保険法(労働保険の保険料の徴収等に関する法律を含む。)
- 労務管理その他の労働に関する一般常識
- 社会保険に関する一般常識
- 健康保険法
- 厚生年金保険法
- 国民年金法
宅建士
宅建試験は日本国内に居住する方であれば、年齢、学歴等に関係なく、誰でも受験可能の資格です。
※ただし合格後の資格登録に当たっては、成年であることなど、宅建業法第18条に基づいた一定の条件があります。
宅建試験の内容は宅地建物取引業法施行規則の第8条において、以下の通り定められています。
一.土地の形質、地積、地目及び種別並びに建物の形質、構造及び種別に関すること。
二.土地及び建物についての権利及び権利の変動に関する法令に関すること。
三.土地及び建物についての法令上の制限に関すること。
四.宅地及び建物についての税に関する法令に関すること。
五.宅地及び建物の需給に関する法令及び実務に関すること。
六.宅地及び建物の価格の評定に関すること。
七.宅地建物取引業法及び同法の関係法令に関すること。
(引用:e-Gov法令検索『宅地建物取引業法施行規則』より)
また、実際の試験概要は以下の通りです。
- 出題形式
- マークシート形式(四肢択一)
- 出題数
- 50問(1問1点)
- 試験科目
- ・宅建業法(20問)
・法令上の制限(8問)
・権利関係(14問)
・税金その他(8問)
※問題数は例年の参考数値です。
合格率の違い
社労士
社労士の合格率は5%〜7%台と、宅建士と比べても難易度は高めです。
受験資格が設けられていて尚この数値なので、しっかりと勉強する必要があります。また社労士試験では科目ごとに合格基準点が設けられており、1科目でも基準を下回ると不合格になってしまうのも、合格率の低さの特徴でしょう。1科目でも落とせば翌年はまた全科目を受けなければいけません。
宅建士
宅建試験の合格率は大体15%前後で推移しており、社労士よりも高いとはいえ十分難関といえるでしょう。
また宅建試験は、毎年20万人以上が受験する人気の資格であり、ここ数年の受験者数も増加傾向にあるのも特徴です。
合格点の平均は50点中35点前後で、合格基準点は毎年変動します。合格ラインに達するためには7〜8割、50点中35点〜40点の得点率が安全圏だと考えましょう。
勉強時間の違い
社労士
社労士試験に受かるために必要な勉強時間の目安は、一般的に1,000時間といわれています。
毎日3時間程度勉強したとして1年かかる計算です。
ただしこれは独学で勉強を進めた場合です。通信講座や通学講座を受講する場合、勉強に必要な時間は約700時間と言われています。
独学と違い、わからないことがあれば講師に質問できる環境も整っているので、どのように勉強するのが自分にとって一番適切かを考え、自分に合った方法を選ぶと良いでしょう。
宅建士
宅建試験に合格するために必要な勉強時間は一般的に、300〜400時間だといわれています。ただし受験者が不動産や法律系の知識を持っていたり、同種の業界経験がある場合は必要な勉強時間はより短縮されるでしょう。
逆に不動産や法律について今まで触れてこなかった初心者が受験する場合、400時間~600時間の勉強時間が必要だとも言われています。大体学習期間は6ヶ月〜12ヶ月で設計するのがおすすめです。
宅建士も通信講座や通学講座がありますので、独学が難しい、すぐに質問できる人が欲しい、という時は検討に入れると良いでしょう。
社労士と宅建士のダブルライセンスのメリットはあるのか?
社労士と宅建士、ダブルライセンスを取得することは可能ですが、この2つの資格は仕事内容の範囲があまりかぶらない資格です。ダブルライセンスを取ったからといって、社労士と宅建士のダブルライセンスを持つ人材の需要を探すのは難しいでしょう。
ただし資格の活用方法は自分次第です。需要として先方が求めていなくても、自分の中で活用方法を目指して就職先にアプローチすることはできます。ただどちらも難関資格であり、勉強にかける時間も少なくはありません。ダブルライセンスを目指すのであれば、自分の中でなぜこの2つの資格を取りたいかを考えて勉強を始めることをおすすめします。
社労士と宅建士どちらがおすすめ?
前述した通り、社労士と宅建士は業務の内容が異なる資格です。興味のある分野や自分の適性に合わせて取得する資格を選ぶのがよいでしょう。
ここでは社労士・宅建士それぞれに向いている人について解説します。
社労士に向いている人
社労士に向いているのは以下のような人です。
- 縁の下の力持ちが苦ではない人
- 人に興味がある人
- 人とコミュニケーションを取るのが好きな人
- 数字に苦手意識がない人
- 現在人事労務部門に勤務中の人
現在人事労務部門に勤務中の人はもちろんですが、人事や労務というのは華やかなフィールドではなく、企業を支える縁の下の力持ちといえます。そのため目立った仕事をしたいという訳ではなく、顧客を支えることが喜びに感じられる人が向いているでしょう。
宅建士に向いている人
宅建士に向いている人は以下のような人です。
- 不動産に興味がある人
- 初対面の人とコミュニケーションを取るのが好きな人
- 正確な仕事ができる人
- 休日が平日でも構わない人
宅建士は不動産に興味があることはもちろん、契約などの書類を扱うため業務の正確性が問われます。また窓口で契約の説明などを行うため初対面の人とコミュニケーションを取る機会が多くなるので、人との会話が苦にならない人が向いているでしょう。
また、窓口は土日祝に開いていることが多いため、休みが平日になっても構わないという方が良いでしょう。