宅建士資格は不動産業以外への転職でも使える?
宅建士資格は不動産に強い資格として知られており、宅建を取ったら不動産業界に就職するイメージが強いのではないでしょうか。
ですが、不動産というのは人が生活する上で必ず関わってくる「衣食住」の「住」の部分であり、生活するにも商売をするにも不動産契約というのは切っても切れません。宅建士の知識は不動産以外の業界でも重用されることが多く、宅建へのニーズがある業界は意外と多いのです。そのため、宅建士資格を持っていると、不動産以外の業界への転職でも十分に活用できるといえるでしょう。
宅建士の強みや特徴
不動産以外の業界での強みを説明する前に、そもそも宅建士とはどのような強みや特徴を持つ資格なのかを順番に解説します。
不動産契約に関する独占業務がある
宅建士には、不動産契約における独占業務があります。独占業務とはその資格を有する者でなければ、行うことを禁じられている業務のことです。
宅建士には以下3つの独占業務があります。
重要事項の説明
一つ目は不動産取引を行う際、契約前にお客様に契約の重要な内容を説明する業務です。不動産の登記名義や、土地建物の状態、大きさ、設備、法的な制限、抵当権等、契約にあたって重要な内容を説明します。これは不動産取引を行う場合に、ほぼ必須で必要とされています。
重要事項説明書への記名、押印
重要事項の説明時には、重要事項が記載された書面をお客様に交付することが決まっています。この書面を「重要事項説明書(35条書面)」といい、書面には宅建士による記名が必要になります。
37条書面(契約書)への記名、押印
不動産契約が合意された後、契約書(37条書面)にも宅建士の記名・押印が必須です。
これらの仕事は全て独占業務であり、宅建士の資格を持っていない人間が行っては行けません。
設置義務が定められている
宅地建物取引業を営む場合、事務所の従業員の5人に1人以上宅建士を置くことが宅建業法にて定められています。5人に1人以上の設置のため、無資格の従業員が増えた場合や有資格者が退職した場合にはすぐに補充する必要があります。この基準を守らなければ、不動産業を行えないため、必然的に宅建士の需要は高くなるのです。
また万が一決まりを守らず規定に満たない人数での営業を行えば、宅建業法違反となり業務停止処分の対象となります。業務停止の期間は最大1年間です。
資格手当が支給される
企業により異なりますが、宅建士資格を持っている場合、資格手当が支給されることが多いです。金額も企業によりますが、大体1〜3万円ほどです。月に数万ではありますが、年間に直すと12万〜36万の底上げにもなるので、持っていて損はありません。
専門知識が身に付く
宅建資格を取れば、不動産取引についての専門知識が身につきます。生きていれば誰しも住む場所は必要であり、不動産契約を行います。実生活の面でも、宅建士の知識は十分に役に立つでしょう。
不動産業界以外で宅建士を取得するメリット
さて、では不動産業界以外で宅建士を取得するメリットは具体的にどのようなものがあるでしょうか。
年収アップに繋がるケースがある
一つ目は、年収アップにつながるケースがあるということです。単純に先に記載した資格手当としてもらえるケースもありますし、不動産業界以外でも不動産契約に関する知識を必要とする業界の場合、知識がない人よりもアドバンテージがあるといえます。
ただし公に資格者を募集していない場合は、面接時に宅建士資格を持っていることで何ができるのかをきちんと採用担当者に伝えることが大切です。アドバンテージになることが分かれば、資格をもっていることで採用時の給与の交渉として使えます。
バイトやパートなど活かす
宅建資格には様々な職種形態があり、正社員ではなくパートやバイトで仕事がしたい!という時にも役立ちます。宅建資格をいかした宅建事務(不動産事務)などの仕事は需要もあり、宅建士を取得していることで自分に都合のいい形態の仕事を探しやすいといえるでしょう。
また、宅建資格は実務経験の有無を問わずに試験に合格すれば取得できる資格です。独占業務を行うための免許は5年に1度更新が必要になりますが、更新しなくても資格自体を失効する訳ではありません。使う予定がなくとも一度宅建資格を取得しておくと、使い始める時に更新すればすぐに宅建士として業務を行うことができます。
私生活でも役に立つ
宅建資格は、個人的に不動産を購入したい、売却したいといった時にも知識面で便利です。宅建の知識があることで、契約の内容を理解できるので、知らずに損をする可能性は低くなるでしょう。また賃貸の場合でも、物件探しの交渉を有利に進められたり、退去時の費用分担などのトラブルを回避できる可能性が高まります。
宅建士資格を活かせる不動産以外の業界
では、具体的に宅建士資格を活かせる不動産以外の業界はどういった業界があるのでしょうか。順番に解説します。
金融業界
まず最初に挙げるのが金融業界です。
金融機関では、不動産を担保としたローンの貸付を行っています。その際担保になった物件の売買取引や、不動産評価を実施しており、不動産契約を取り扱う機会が多いのです。また、不動産業者から住宅ローンの顧客を紹介してもらうケースも多く、宅建の知識を持っていることでやり取りをスムーズに行えます。
そのため金融業界では、宅建資格の取得を積極的に推奨していたり、宅建士資格保有を昇進条件としている企業もあり、採用時には資格取得者であることが有利に働く業界と言えるでしょう。
保険業界
また保険業界ではライフプランナーとして、宅建士の資格を活用できます。
最近の保険商品は医療保険や自動車保険などのトラブルに備えるだけでなく、将来の年金や貯蓄のためのものが増えてきています。そういった保険の営業はライフプランナーと呼ばれ、顧客の人生に寄り添って生涯の資金計画を助けるのが仕事でもあります。
住居というのは人の人生から切っても切り離せない要素であり、家の購入は多くの人にとって人生で一番大きな買い物でしょう。ライフプランナーが住宅ローンや不動産投資について相談される場面も多く、そう言った時に宅建士の知識は役立ちます。「不動産契約についてはこの人」というポジションを築ければ、企業にとっても価値の高い存在になります。
建設業界
建設業界では、建物の建築だけでなく、物件の販売まで手がけている企業もあります。
マンションや建売住宅の販売は宅地建物取引業に該当するため、宅建業法の設置義務「事業所の5人に1人宅建士を置く」法が適用されます。そのため物件の販売を手がけている建設業界では、宅建士は必要不可欠な存在なのです。
宅建業と建設業は元々重なる部分が多い業界でもあります。建設業界では都市計画や都市開発などに携わるケースも多く、都市の開発には建物と契約が不可欠です。面接の時のアピールポイントにも十分なるでしょう。
コンサルティング業界
コンサルティング業界でも宅建士の資格は有利に働きます。
お店や企業のコンサルティングを行う場合、店舗や本社の設置には不動産契約が必要となり、宅建の知識が助けになります。
ただ宅建業と深く結びついている金融業界や建設業界とは違い、コンサルティング業界への採用時には、資格のメリットをきちんと自分から説明することが大切でしょう。
その他(公務員やライターなど)
他にも、公務員であれば、都市計画・不動産物件取引・企業誘致などを行う部署の場合、仕事内容に不動産取引が関わるので、宅建士の知識に助けられるでしょう。
また宅建士の知識を活用し、不動産契約に関する記事を執筆するライターとして活躍することも考えられます。不動産業界では自社メディアを取り扱っている企業もあり、有資格者のライターは重宝されます。またフリーランスとして活躍する場合も、不動産取引に関する分野の仕事を取る際には十分アドバンテージになるでしょう。
不動産業界以外で資格を活用するには
上記の通り、不動産業界以外でも宅建士の資格が活用できる場面は数多くあります。ですが不動産業界とは違い、積極的に宅建士資格者を採用しているケースは多くありません。
そのため、資格の活用には工夫する必要があります。
他の資格も取得して専門性をアピール
宅建資格と関連性の高い資格を取得してアピールするのも方法の一つです。例えば下記のような資格は宅建士と関連性が深い仕事といえます。
管理業務主任者
管理業務主任者は、マンションの管理業者が管理委託を行う際に、管理委託契約に関する重要事項の説明や管理事務報告を行う国家資格者のことです。管理業務主任者の資格試験の内容は、宅建士資格とかぶる部分が多く、ダブルライセンスを取得しやすいといえます。
マンション管理士
マンション管理士はマンションの管理組合や区分所有者に対して、マンションの維持・管理について助言や提案を行うことを業務とする国家資格です。マンション管理士についても、学習内容が宅建士資格と多くかぶっています。主な業務はコンサルティングなので、宅建とダブルライセンスを取ると、契約からその後の助言までを一貫して行うことができます。
賃貸不動産経営管理士
賃貸不動産経営管理士は、賃貸住宅管理の適正化・健全化に貢献することを目的とした国家資格です。主な業務はアパートやマンションなどの賃貸住宅の管理になります。宅建士とダブルライセンスを取ると、入居の契約から入居後の物件管理までを行えるようになります。
住宅ローンアドバイザー
住宅ローンアドバイザーは、家を購入する人が最適な住宅ローンを組めるようにサポートする民間資格です。例えば保険業界でライフプランナーとして働いている場合、宅建士と住宅ローンアドバイザーの資格を取っていることで、契約からローンの中身まで顧客をサポートすることができるでしょう。
不動産鑑定士
不動産鑑定士とは不動産の価値を判定する専門家として、不動産の鑑定評価を行う国家資格です。宅建士との相性は非常に良く、試験範囲も大きくかぶっているため、宅建士合格後不動産鑑定士を目指す方も多くいます。
行政書士
行政書士は官公署に提出する書類の作成や代理申請を行う国家資格です。宅建士と大きく業務がかぶることはありませんが、行政書士は独立開業している人が多く、宅建士の資格を持っていることで不動産契約に関わる部分についても仕事を引き受けることができるようになります。
ファイナンシャルプランナー
ファイナンシャルプランナーは、顧客のお金に関わる様々な相談にのるお金のスペシャリストです。FP技能士やAFP、CFPなど金融に関する資格の総称であり、ファイナンシャルプランナーの中には国家資格も民間資格もあります。
業務範囲は多岐にわたり、金融業界、保険業界、不動産業界など様々な業界で資格をいかすことができるでしょう。宅建と組み合わせることで、不動産に強みを持ったファイナンシャルプランナーとして価値を深めることができます。
企業に採用時に伝えることが大切
最後に、宅建士の資格メリットを不動産業界以外で利用したい場合は、きちんと採用時に面接官に伝えることが大切です。ただ履歴書に宅建士と書かれているだけでは、業務の中でどれほど有用なのかが相手に伝わらないこともあります。
金融業界や建設業界であれば宅建士との業務の関わりが深く、資格に書いているだけでも向こう側で拾ってくれるかもしれませんが、必ず見てくれるわけではありません。また保険業界やコンサルティング業界などであれば、相手側の会社の業務に対して宅建の知識があることがどのようなメリットがあるのかを説明できないと、ただ資格を持っているというだけで流されてしまう可能性もあります。
宅建士は合格率は大体15%前後といわれる難関国家資格です。資格を持っているというだけで、国家資格を取れるだけの基礎知識や根気があるという証明になります。自信を持って、ぜひ伝えてみてください。