武居裕介さん
1980年生まれ。情報通信業界及びIT企業の上場企業の人事職、カナダでの貿易系企業と教育系IT企業のローカル企業での職務経験、人事コンサルのベンチャー企業でのマッチングシステム立ち上げ責任者、北米一周・世界一周の1人旅の経験を経て、現在個人事業主としてバイリンガルキャリアコンサルタントの活動をしながら、WELgee就労伴走事業「WELgee Talents」のキャリアコーディネーターを務めた。趣味は自転車とワインと世界旅。
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壁にぶつかっても這い上がってくる人たちを応援したい
今は、日本にいる外国人向けのキャリア支援を中心に行っています。個人事業主として、外国人や海外経験者のキャリアサポートをする傍ら、キャリアコーディネーターとして参加しているNPO法人のWELgee(ウェルジー)では、日本に逃れてきた難民と企業とのマッチングをしていました。
なぜ外国人の支援が中心なのか――。それは僕が、彼らに無限の可能性を感じるから。僕が出会ってきた日本社会で活躍する外国人の人たちは、こちらがビックリするくらい過酷な人生を歩んできた、という人がほとんどです。例えば、電気がない農村からやってきた、故郷で家族が殺された、なんていう人もいます。でも、困難な人生の中で、彼らはどれだけ壁にぶつかっても、前に進もうとしている。僕はそういう彼らをとても尊敬しているし、応援したいと思うんです。
人生に迷い、海外へ渡った過去
そもそも僕自身、何度も壁にぶつかった人生でした。1980年生まれ、いわゆる「ロスジェネ世代」として、非常に厳しい状況での就職活動を戦い、やっとの思いで入った会社での営業成績はボロボロ。その後のリーマンショック、突然の結婚破談、転職先でのいじめ……今振り返ってもつらい時期でした。そんなころ、海外経験のある同僚と知り合い刺激を受けたことがきっかけで、海外で生活することを考え始めました。
もちろん、これまでのキャリアを捨てて、イチから挑戦することにすごく迷いはありました。でも、このまま日本にいても鬱になると思ったし、新しい世界に飛び込みたいという思いが勝ったんです。
そうして、自分を崖っぷちに追い込んでカナダに渡ったのですが、予想を超える様々な経験ができました。英語で企業にテレアポをしまくったり、現地企業に潜り込んだり……多くの世界の人たちとも出会うことができ、一人の人間としての自信もつきました。
難民のキャリア支援に自分を駆り立てる思い
カナダでの海外生活の最中、予期せぬ出来事が起きました。それが、2011年の東日本大震災です。現地でのテレビに映る映像は、まるで映画のようなシーンで、激しい津波の映像が日本の過酷な状況を物語っていました。
「日本に戻れないんじゃないか」「日本に戻っても仕事はないんじゃないか」と強い不安を感じました。
幸いにも、悩んでいた僕を、家の部屋を借りていたオーナーが彼の人脈を使って助けてくださり、現地企業での雇用機会を頂いたのですが、その話もすぐには進まずに、一年弱待ったのですが、最終的に消えてしまったのです。
結果的には、翌年には帰国したのですが、あの時感じた「故郷に帰れないかもしれない」という大きな不安や迷いが今でも記憶によく残っていて、難民のキャリア支援に駆り立てている部分は大きいと思いますね。
大きな学びを得たキャリアコンサルタント試験
帰国後、渡航前にお世話になっていた海外経験者のキャリア支援会社に声をかけていただいて、入社しました。その会社に在籍していた時、社長や上司がキャリアコンサルタント有資格者であったこともあって、キャリアコンサルタント養成学校に通い始めたんです。
養成学校時代の一番の思い出は、クラスのメンバーでやったロープレの練習ですね。ここではめちゃくちゃ恥をかきました。トレーナーに「カウンセリングになってない」「クライアントの発する言葉をちゃんと聞いてる?」「指示するんじゃなくて相手に気付きを促さないと」など、バンバンダメ出しされました。でも、同時にこの練習がすごく面白かったんです。特に、バックグラウンドの違うメンバーでやると、その人特有の癖にも気付きやすくなるから、互いに指摘し合うこともできました。
この頃の学びで今でも役立っていると感じるのは、キャリア理論や心理学を頭に叩き込んだことです。僕は、面談でクライアントをキャリアカウンセリングしながらプロファイリングして、潜在能力や真意を見抜くのが得意なのですが、それも資格取得の勉強の中で学んだ理論だとか分析ツール、思考法がベースになっています。
職務を全うできたFさんと企業とのマッチング
WELgeeで扱うケースはどれもドラマチックなのですが、特に、エチオピアから来たFさんとの面談は印象に残っています。Fさんは、母国でMBAを取得したり、商工会議所に勤めていたり、日本の大学でアグリビジネスマネジメントを専攻していたりと、とても優秀な方です。それなのに、最初の面談では日本社会に適応していくためか、あえて自分自身をとても下に見せていたんです。
でも僕は、すぐに彼の真の能力を見抜くことができました。それで、「このスキルや経験値を活かせるのは、社長の参謀レベルの役職でしょう。ただの社員になってしまっては勿体ないですよ」と伝えたんです。逆に言えば、日本語がほとんど使えないFさんにそうしたポジションの求人を探すのがとても大変ではあったのですが……。最初の面談から2年後、とある企業の社長が彼の明晰さや人柄の良さにほれ込んでくれ、海外事業マネージャーとして正社員採用されました。
なぜ僕が彼の本質を見抜けたかというと、これまで多くの外国人と触れ合ってきたということもありますが、これに加えて、プロファイリング技術をはじめ、キャリアコンサルタントとして多くの知見やスキル、経験値を得てきたからだと思います。Fさんの件は、職務を全うできた例として、とても誇らしいケースの一つです。
人生の走行をサポートできる存在でありたい
キャリアコンサルタントは、補助輪みたいなものだと思っています。人は誰しも、一人で漕ぐ力を持っています。でも時折り、どういう風に道を選べばいいのか、進んだらいいのかわからなくなってしまう。そこを伴走しながら補助してあげるのが僕らの役目です。そもそも僕は、「人」というものが好きで、問題を解決してあげることが好き。その人が困っていることを解消でき、さらに人生の転換点に立ち会える喜びがモチベーションの一つです。
ただ本音を言えば、他人の人生と関わるのは難しいな、と感じることもあります。中には、出会ったときには後ろ向きになっていたり、他責思考だったり、外国人でも、全く日本語が使えなかったり、現地の労働環境と日本企業とのギャップを受けいれられなかったり、という方もいます。そういう状況だと、せっかく企業とマッチングしても早期離職になってしまいます。
だから例えば、日本語をある程度学んでもらう、まずは日本人に囲まれた環境でアルバイトしてきてもらうなど、一定期間“修行”に出るよう促すこともあります。一人で自転車を漕いで、自分の人生を走り続けることができるよう、自立させることも重要な仕事です。
外国人と日本企業の架け橋に
まだ日本には、外国人のことを人手不足を補うための単なる「労働力」としてしか認識していない、という企業も多いと思います。僕は、こうした風潮を変えていきたい。彼らの能力、本質を見極め、うちの会社でぜひ活躍してほしい、一緒に成果や未来を作っていきたいと考える企業を増やしたいと考えています。
結局、ビジネスは全て「人」で構成されていると思います。もちろん、会社の知名度や規模なども関係しますが、やっぱり最後は「人」で決まる。特に海外では、どの会社から買うかより、誰から買うか、が重視されていると感じます。「お前のこと好きだから」「友達だから」という、要は人間力での勝負になるのです。
今後日本にもっと外国人が増えてくるだろうという状況において、国籍関係なく人間力を磨いていくことが、社会を良くしていく秘訣だと思いますね。
キャリアコンサルタントを目指す方へ
キャリアコンサルタントに必要な力は、コミュニケーション能力や傾聴力など色々言われますが、総括すると人間力だと言えるのではないでしょうか。では人間力がどうしたら身につくかというと、この方法はたった一つ、失敗を重ねる、これしかないんですね。これはキャリアコンサルタント側だけでなく求職者側にも同じことが言えますが、とにかく何度挫折しても這い上がってくる。それを繰り返していって気付くと、レベルアップしている。そういう地道で泥臭いやり方でしか、人間力は磨けないと思います。
キャリア理論の一つに、「計画的偶発性理論」という有名な理論があります。人生は偶然の積み重ねによって決定されるという前提のもと、その偶然をチャンスと捉え活かすことで、自分のキャリアを良くしていくというものですが、僕の人生はまさにこれでした。何度も壁にぶち当たって回り道しましたが、そのたびに誰かに助けられ、チャンスをもらって、今ここにいます。どの失敗も出会いも、すべて次への大切なステップのひとつでした。皆さんも、たくさん失敗して、恥をかいて、頑張ってください。