岡野顕子さん
Veterinary Career Lab SMILE 代表
獣医師
キャリアコンサルタント
国際EAPコンサルタント
一般社団法人プロティアン・キャリア協会 認定ファシリテーター
レジリエ研究所認定 レジリエ・コーチ
EAPA-J認定ヘルシーリレーションインストラクター
20年以上におよぶ臨床獣医師としての経験と管理職経験を活かし、動物病院でキャリアコンサルタントとしてキャリア支援を行っています。
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現在の活動
「動物が好き」という気持ちがスタート
獣医師になったきっかけはシンプルに「動物が好きだから」です。子どもの頃にテレビで「ムツゴロウ王国」を見て、特に犬、大型犬に携わる仕事がしたいと思っていました。「獣医師は国家資格だし、動物が苦しんでいるとき、病気のとき助けることができるよ」という母の後押しもあって、目指すことに決めました。
大学の獣医学科で学び、資格を取得後、京都の動物総合病院に就職しました。副院長を10年ほど務めたのち、院長職に就きましたが、1年ほどで退任。「院長職に就いたら一般臨床からは離れよう」と決意して臨んでいたこともあり、今後どのように働くべきか、すごく思い悩みました。結局その病院は退職したのですが、組織の中で働く大変さを痛感した経験から「これからは組織のコマとしては働きたくない」と思うようになっていました。
キャリアコンサルタントを取得するまで
キャリアコンサルタントになって、動物病院の人材面をサポートしたい
「組織に振り回されることなく、自分自身の軸を持って働きたい」そんなふうに考える中で、たまたまキャリアコンサルタント(以下、キャリコン)について知りました。キャリコンなら、経営者と従業員の間に立ち、中立的な支援ができるのではないか。動物病院の人材問題や、経営課題などを熟知している自分だからこそ、キャリコンを取得することで、悩んでいる獣医師たちの力になれるのではないか――そう思いました。
動物病院の経営者や管理職の人と話していると、みんな、人材問題で悩んでいます。私は、従業員の立場も、院長の立場も経験していて、それぞれの苦しみや悩みを知っている。動物病院の人材面をサポートできるキャリコンは、きっとニーズがあると感じました。
キャリアコンサルタント試験の勝因はロープレ試験対策
キャリアコンサルタント試験は1度で合格しました。勝因は、ロールプレイの練習をたくさんしたことでしょうか。かといって、相手は誰でもいいからとにかく練習すればいい、というわけではないと思います。練習相手は、実績のある人を選ぶことが大事です。キャリコン試験の内容や傾向を知り尽くして、実践的なアドバイスができる人を選ぶべきですね。
私の時は「はじめの5分間は質問せずに聴いて」など、具体的なアドバイスをいただきました。キャリコンは面談の最初の5分、10分くらいで相手と信頼関係を築かないとといけないので、質問攻めにするのはNGだから、と。この練習で、相手の気持ちに共感し、受け答えしつつ、「語ることを励ます」ことの重要性を学びました。私は獣医なので、どうしても飼い主に質問してきた経験上、質問が多くなってしまうんです。ついあれこれ聞きたくなっちゃう。ロープレもはじめの5分間はうずうずしましたが、耐えました(笑)。
ただ、試験のロープレ自体は失敗しても合格できると思います。重要なのは、のちに行われる口頭試問で、ロープレのどこが悪かったか、反省点を冷静に分析して言えること。「本来こういう感情が出たときはこういう点を聞くべきでした」とか、具体的に反省点と改善法を説明できると良いですね。
動物病院でのキャリア支援
行動分析学を用いたキャリア支援で動物病院をフォロー
キャリコンの取得後、フリーランスとして活動できる準備を整え、動物病院でのキャリア支援を始めました。支援の内容はその病院の悩みにより異なりますが、理念がない病院はまずは理念を作る、というケースが多いですね。大体どこの病院も、離職率が高いことに悩んでるんです。だからこそ、闇雲に人材を採用するのではなく、「私たちはこういう思いでやっています」と表明できる理念をきちんと作って、それに合致する人を集めるやり方が効率的ですよ、と伝えます。採用の時点で考え方や経営方針に合わない人を減らすことができ、結果的に離職率の低下につながります。
また、キャリア支援では従業員に向けた研修なども行います。動物病院はメンタル不調を訴える方が多いので、その部分のフォローもできるように、国際EAPコンサルタント※やレジリエコーチ※の資格も取得しました。科学的根拠に基づいたメンタルヘルス、ハラスメント、キャリアデザインに関する研修を行っています。
※国際EAPコンサルタント…アメリカで発祥した従業員支援プログラム。日本では一般社団法人国際EAP協会が講座や研修などを運営している。認定資格として「EAPコンサルタント」などがある。
※レジリエコーチ…「レジリエンス」は「回復力」「弾性(しなやかさ)」を意味し、ビジネスの現場においては、「困難をしなやかに乗り越え回復する力(精神的回復力)」として注目されている。日本ではレジリエ研究所株式会社がレジリエンスの考え方を普及するため、「レジリエ・コーチ養成講座」などを実施。
人も動物も変化のポイントは同じ!?
普段動物を相手にしている動物病院の方々は、エビデンスに基づいた、行動分析学的なアプローチが理解しやすいようです。例えば後輩の育成に悩んでいる人ならば「犬におすわりさせたいとき、手を品を変え働きかけるでしょう?後輩育成もそれと同じですよ」と説明するとすごく理解してくれます。
人も動物も、「これをやれ」って言ってやらなかったとしたら、じゃあどうしたらできるか考えて、ひたすらアプローチする必要があるんです。ある意味しつけと同じと言えるかもしれません。
いわゆる「オペラント条件づけ」と言われる理論ですが、何かきっかけがあって、行動があって、見返りがある、という学習機能についても、人も動物も同じです。人間の場合は言語という媒介があるので、相手の行動に対してどのような言葉をかけるべきかなど、具体的に改善点を分析・検討する、といった違いはありますけどね。「感情」にフォーカスせず、「理論」をもとに行動変容し、システムを見直していくことで、動物病院の人材問題も解決できるはずだと信じています。
キャリアコンサルタントについて
キャリアコンサルタントに必要な力
「学び続ける力」だと思います。時代や社会はどんどん変化していくので、その時々に合ったキャリア支援をやっていかなくてはなりません。そのため、情報収集も含め、常に最新のキャリア理論を学んでいく必要があります。
私は今、プロティアン・キャリア理論について学び直しています。これは、組織ではなく自分の中に軸を持ち、主体的に能力を培い、キャリアを作っていくという考え方です。そして、組織と対話することにより、キャリア自律をつくっていくのです。かつて組織の中で疲弊した経験がある私にとっては、自分自身がキャリアの主体となり、キャリアオーナーシップ持つ、という考え方が非常にしっくりきて、理解しやすいものでした。
今年一般社団法人「プロティアン・キャリア協会」の認定ファシリテーターを取得したので、来年には上位資格を取りたいと考えています。資格を取得したら、この「キャリアオーナーシップ」の考え方を動物病院にも広く伝えていきたいです。
キャリアコンサルタンを目指している方へ
キャリコンを取ったことをゴールにしないで欲しいと思います。キャリコンの取得は一つの方法であり、スタート地点でしかありません。「取得後に何をしたいのか」が重要です。
もちろん、今すぐ確固とした答えはなくてもいいと思いますが、キャリコン自身がキャリアに迷走していたら相談者も迷ってしまいますよね。「この人に相談したい」と思ってもらえるように、自律したキャリコンになってほしいです。それは、組織に所属しているとかいないかとかそういうことではなく、自分自身のキャリアビジョンが明確かどうか、ということです。
試験を機にキャリア理論をしっかり学んで、体現して、実践していきましょう。
大切にしていること
背中を押してくれたジョブズのスピーチ
院長職を辞して自分のキャリアに迷っているとき、かの有名な、スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学卒業式でのスピーチを聴く機会がありました。
全体を通して素晴らしいスピーチですが、特にAppleをクビになってどん底に落ちた彼の経験談が、院長職を辞した自分に似ているところがある、と感じたんです。彼はクビになった経験を「本当にしんどい出来事」だったとしながらも、結果としてピクサーの立ち上げや妻との出会いにつながった「人生最大の幸運な出来事」でもあったと述べています。このスピーチを通して、マイナスだと感じたことも、一生懸命取り組んでいるうち道になっているし、自分の歩んできたことすべてがキャリアになるんだ、ととらえることができました。
一番好きなのは下記のフレーズです。
So you have to trust that the dots will somehow connect in your future.You have to trust in something.
(未来を見て、点を結ぶことはできない。過去を振り返って点を結ぶだけだ。だから、いつかどうにかして点は結ばれると信じなければならない)
※スティーブ・ジョブズ氏が2005年6月12日、スタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチ原稿より抜粋
私も、院長を辞めていなかったらキャリコンになっていなかったと思います。自分のやりたいことをやって働けている今の自分が好きです。これからも、何につながるか今すぐにはわからなくても、新しいこと、未知のことに興味を持って、チャレンジしていきたいですね。