三井あゆみさん
コールセンター、企業向け研修会社、専業主婦などを経て、2014年からフリーの講師として独立。
自身が離婚を経験したことから、ひとり親に向けた短期的かつ中長期的な視点を持ったキャリア支援の必要性を感じ、LUX(ルクス)を立ち上げる。女性がライフイベントやライフステージの変化でキャリアを中断されない、自立できる社会を作りたいという想いから、今後はさらに個人向の支援、企業に向けた女性活躍推進やストレスマネジメント、両立支援などのセミナーに注力していく。
【資格・認定など】
国家資格キャリアコンサルタント
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会認定アンガーマネジメントコンサルタント
一般社団法人SNSエキスパート協会SNSリスクマネジメント検定
メンタルヘルスマネジメントⅢ種、秘書検定他
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現在の活動
研修講師とひとり親支援の2本柱
現在、企業や学校などでの研修講師と、ひとり親のキャリア支援と、主に2つの軸で活動しています。ひとり親のキャリア支援としては、個人での活動のほか、東京都ひとり親家庭等就労支援事業のキャリアコンサルタントチームの統括を担当し、企業とキャリアコンサルタント(以下キャリコン)との架け橋を担っています。
ひとり親の方は、今後の働き方について悩まれてご相談にいらっしゃるケースが多いですね。中でも、自分の給料だけで生活していくという方と、手当に頼りながら非正規を選ぶという方、2つに分かれている印象です。
前者の方は、スキルアップしたい、将来に備えたいなどのパターンが多いですが、後者の方は、働くことを自分でセーブしている方が多いです。収入が増えることにより、現在受けられている手当とのバランスを考えていらっしゃるんですね。正規社員になると育児や家事との両立が難しくなる可能性もあって、すごく難しい選択なんです。
私もひとり親の当事者ですので、その葛藤や悩みは非常によくわかります。だからこそ、まずはその方を否定せず、ご自身が今後どうなりたいか、どう生きていきたいか、という点を伺います。自分の収入だけで生活したい、子どもに習いごとをさせたいなど具体的な希望をお伺いできれば、では、そのために、いつからからなにができそうか、という風に一緒に考えていきます。皆さん状況やなりたい姿は違うので、一律に「ひとり親だから〇〇」と言うのは違うんですね。それぞれに寄り添った支援をしていきたいと考えています。
転職、出産、離婚を経験
強みである「個別性」を身につけたテレオペの仕事
20代半ばのころ、国産パソコンメーカーのテクニカルサポートとして勤め始めました。この仕事を通して、今の私の強みでもある「個別性」が身についたと思います。
お電話してくる方は、年齢も、パソコンの知識もバラバラです。高齢の方やパソコンに詳しくなさそうな方には、「ディスプレイ」ではなく「テレビ画面」と表現したり、逆に詳しそうな方には敢えて専門用語を使用したり。状況を瞬時に判断し、それに合わせた対応をする力、「個別性」が鍛えられました。
そこから研修会社に転職し、講師や提案営業を担当していたのですが、リーマンショックの煽りを受けてリストラされてしまったんです。その時、知人からキャリアコンサルタントの先生をご紹介いただき、キャリアカウンセリングを初めて受けました。その後先生のもとでアシスタントをやらせていただく機会にも恵まれ、その仕事ぶりを間近で見させていただいたんです。一人で業務をこなし、ご自分の理念に沿って自己実現されている姿に憧れ、やがて「私も独立して仕事を通して自己実現をしたい」と思うようになりました。
その後、食品トレーの受注企業に入社しましたが、第1子妊娠を機に退職。しばらく専業主婦として過ごし、第2子出産後、フリーの研修講師として働き始めました。
転機となった離婚経験
転機となったのは、私自身が離婚をしたことです。様々な不安を抱える中で、キャリアコンサルタントや弁護士の方に相談したところ、金銭面や働き方について具体的で親身な助言をいただけました。特に印象に残っている言葉は「一番は自分を大切にすること。それから子供の福祉を大事にすること」というものです。自分が自分を大切にできないままだと、他の誰かを支えるなんてことできないんですね。この言葉は今でも私の中に残っています。
ひとり親として前を向き始めたところで、短時間の講師の仕事を見つけたので、登録をすることに。ここで、前向きに明るく生きているシングルマザーの方と多く出あうことができ、「シングルマザーでも、こんな明るくパワフルに生きられるんだ。私もこうなりたい」とエネルギーをもらいました。講師としての仕事も順調に増え、やがて「私のように不安を抱えているひとり親や子育て期の女性を支援したい」という目標もできました。
支援される側から、支援する側になりたい――。そう思っても「ひとり親の当事者である」というだけでは、専門的な支援はできません。キャリア理論や手法を体系的に学ぶ必要があると思い、キャリアコンサルタント養成機関に通い、資格取得を目指しました。
キャリアコンサルタント試験
相手の話を真摯に聞く姿勢を学んだロープレ練習
はじめ、面接試験のロープレがすごく苦手でした。何度「相手の話に集中しなさい」と指摘を受けても、なかなかできなかったんです。相手が話している間も「次は何を聞こう」「この後どうやって展開しよう」など、ずっと考えを巡らせていて、全然集中できませんでした。
そんなとき、キャリコンの先輩にロープレの練習をしていただく機会がありました。その練習は、養成講座で行われるものとは全然違って、すごくリアルで生々しかったんです。支離滅裂でまとまりがないし、ゴールが見えない話をされるし。でも、だからこそ相手の話に集中して、その場で考えないとついていけません。この練習を通して、試験のためではなく、「本当に相手のために話を聞く」という姿勢が学べたと思います。
3度目で思い切って勉強法を変えた筆記対策
一方で筆記試験は、当時子どもがまだ小さくて手がかかったこともあり、集中して勉強できる時間がとれなくて…3回も受験しました。
一度はあきらめかけたのですが、「子どもを預かってもらって必死に勉強して、お金もかけたのに、この経験を失敗体験にしたくない。もう1回だけ頑張ろう」と奮起し、3回目で思い切って勉強法を変えたんです。
ものすごく時間がかかるやり方ですが、過去問の4択問題全て、どこが間違っているのかを調べる、調べた後に法令などを読んで、その資料を全部印刷して、マーカー引いて……という勉強をひたすら続けました。これを繰り返すうちに、知識が定着してくのを実感できたんです。これまでのひたすら暗記する方法に比べると、気が遠くなるような時間がかかりましたが、試験日は確かな手ごたえを感じることができました。
キャリアコンサルタントとして
一人ひとりをきちんと見た支援を
私も離婚を経験し、金銭面や働き方、子育てのことでたくさん悩みました。でも、キャリア面談などでは、敢えて割り切った立場としてご相談に乗るようにしています。
というのも、ただ共感して話を聞いているだけだと、傷のなめ合いで終わってしまうんですね。それだと未来に向けた建設的な方向に向かいにくいですね。私が経験から共感し過ぎてしまっては、キャリアコンサルタントとしての職務を果たせていないと思います。離婚直後にいただいた助言にも通じる話ですが、自分自身が精神的にも経済的にも元気な状態でいないと、対象の方とキャリアコンサルタントとして向き合うことは難しいと考えています。
ひとり親になった経緯も、離婚の方、死別の方、未婚の方と様々です。私の場合は離婚ですが、死別や未婚の方に対して、自分と同じように対応するのは間違いですよね。突き詰めると、ひとり親だからとか、女性だからとかではなく、一人ひとりの方をきちんと見ないと本当の意味での支援はできないと考えています。
キャリコンに必要な力
「自分のバイアスをかけずに相手と向き合うこと」だと思います。それには、まずは自分にどんなバイアスがあるか理解することが大切です。先にもお話した通り、ご相談者の状況は様々です。例えば働きたいのに働けない、という人には、何か働けない事情があるはずです。そうしたときに、「がんばって働こう」などと安易に考えるのではなく、まず相手の背景を想像する。わからなければ相手に聞いて情報収集する。そのうえで、どうするのがいいのか一緒に考えていく。そうした、相手の立場や視点で物事を捉える力が、キャリコンにはとても重要だと思います。
キャリコンを目指す方へ
残念ながら、資格を取っただけでは仕事が来るとは限りません。これまでの経験やスキル、知識などと資格と掛け合わせて、自分ならではの強みをもとに仕事につなげていきましょう。そのためには、まず自分は何ができるのか、そして、何をしていきたいのか、と自己分析を通して自分自身の理解を深めることが必要です。
そのうえで、積極的に自分について発信していきましょう。「こういうことができます」「こういうことがやりたいです」と常に発信することで、何か仕事が発生した時に「〇〇さんに声をかけよう」と思い出してもらえると思います。
今後について
専門家とチームを組んで、より最適な支援をしていきたい
今後は、様々な専門のキャリコンの方々とチームを組んで仕事をしていきたいと考えています。
キャリコンの中でも、その他の専門をお持ちの方はすごく多いんです。例えばキャリコンとFP(ファイナンシャルプランナー)を持っている方に、キャリアとマネーに関するセミナーをやっていただいたり、法律面の知識が必要な場合には、弁護士資格も持っているキャリコンの方を呼んでアドバイスをいただいたり。同時に、キャリコン以外の異業種の方とのネットワークも広げていこうと、最近では異業種交流会などにも参加しています。
自分1人が提供できることには限りがありますが、カードをたくさん持っておけば、その時々で様々な方に合わせた最適な支援をできるのではないか、と考えています。
そうして近いうちに、長年の夢である会社を設立したいです。仕事を提供する側になり、働く人の個々の能力を生かせるような事業を展開して成果をあげていきたい。チームとして仕事を引き受けることで、よりスケールの大きな仕事に挑戦していきたいです。
一人ひとりのステージに光が当たりますように
「転機のあとには新しいステージがある。そして、その新しいステージに光が当たるように」が軸として、研修講師やキャリアコンサルタントの仕事の根底にあります。
離婚した方であれば、新生活で自分らしく理想を叶えられるように、学生で言えば、進学後や就職後に困らないように、若手の社員の方であれば、スキルを磨いて次のステージで活躍できるように。目の前にいる方の新しいステージに光が当たるように、その思いを込めて、ラテン語で「「光」を意味する「LUX(ルクス)」という名前の組織を立ち上げました。これからも、私ならではの強みや武器を活かし、それぞれの人生のステージを輝かせるためのサポートをしていきたいです。