公務員から行政書士になるには?
公務員から行政書士になるには、大きく分類すると二つの方法があります。
資格試験に合格する
1つ目はスタンダードに資格試験に合格する方法です。行政書士は、行政書士法によって定められている国家資格であり、資格取得のためには毎年11月に行われる行政書士試験に合格する必要があります。合格後、行政書士名簿に登録されることによって、行政書士として仕事を受けることが可能になります。
公務員の特認制度を利用する
もう1つが公務員の「特認制度」を利用する方法です。特認制度を利用する条件を満たしていれば、行政書士試験が免除されます。
ただし特認制度を利用するには高校卒の場合は17年以上、中学卒の場合は20年以上、公務員としての行政事務を行った経験が必要になります。そのため自身のキャリアを考えた時に、特認制度を利用するのがよいかどうかは一長一短あるでしょう。注意点については後ほど解説しています。
また、行政書士試験は弁護士、弁理士、公認会計士、税理士のいずれかの資格を有している場合も試験が免除されます。
公務員から行政書士になれる「特認制度」とは?
では具体的に「特認制度」とはどういった制度なのでしょうか。
公務員の特認制度
行政書士法第二条の六項には以下のように示されています。
第二条 次の各号のいずれかに該当する者は、行政書士となる資格を有する。
六 国又は地方公共団体の公務員として行政事務を担当した期間及び特定独立行政法人又は特定地方独立行政法人の役員又は職員として行政事務に相当する事務を担当した期間が通算して20年以上(学校教育法による高等学校を卒業した者などにあっては17年以上)になる者
(引用: e-Gov法令検索_行政書士法『行政書士法(昭和二十六年法律第四号)』より)
つまり、公務員として17年以上ないしは中卒であれば20年以上、行政事務を担当した場合には、行政書士の資格を有することができるということです。
また、資格を有するだけでは行政書士として仕事をすることはできません。行政書士として働くには各都道府県の行政書士会を経由して、日本行政書士会連合会の登録を受ける必要があります。特認制度を利用する場合、事前に従事してきた職務内容について提出し、各都道府県の行政書士会の審査を受ける必要があります。
規定の年数勤務していた時でも職務内容によっては認定されない場合があり、必ずしも登録されるわけではないという点には注意が必要です。
特認制度の趣旨
行政書士は、官公署へ提出する公的書類を作成・提出するのが主な仕事です。対して公務員の行政事務とは、役所の窓口業務や行政文書の作成など提出された書類を審査・管理するのが仕事です。このことから、行政書士と公務員に必要な公的書類に関する知識は共通している部分が多く、職務範囲が広く重なっているといえます。
行政書士資格試験は行政書士の実務をおこなう知識が備わっているかを試験するものなので、規定期間、公務員として従事していた場合、十分に行政書士試験相当の知識が備わっているとみなされるのでしょう。
特認制度の手続き
公務員として17年以上(中卒であれば20年以上)従事していた場合、特認制度を利用して、各都道府県の行政書士会に入会・登録の申請を郵送でおこなうことができます。
必要書類は各都道府県の行政書士会により異なりますが、事前調査としてこれまで従事してきた職務内容について提出する必要があります。
必要書類の例
・行政書士資格事前調査願
・公務員職歴証明書
・証明書(行政書士法第2条の2第4号に該当しないことの証明)【該当者のみ】
(参考 東京都行政書士会ホームページより)
各都道府県によって提出フォーマットが決まっている場合もあるので、登録を希望する都道府県の行政書士会に必要書類を確認の上、提出をおこないましょう。
審査期間も申請先により、2週間〜1ヶ月以上と異なるため、事前に確認が必要です。
行政書士と公務員の試験比較
前述したとおり、特認制度を利用して行政書士になる場合は最短でも17年以上の勤続が必要となります。公務員も行政書士も試験に合格する必要があり、行政書士として早くから仕事をしたい、キャリアを築きたいと考えている場合は、行政書士試験を受けることを考えるのもよいかもしれません。
ここでは、行政書士と公務員の試験を比較します。
試験科目
・行政書士
行政書士試験の科目 | |
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「行政書士の業務に関し必要な法令等」(出題数46題) | 憲法、行政法(行政法の一般的な法理論、行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法及び地方自治法を中心とする。)、民法、商法及び基礎法学の中からそれぞれ出題し、法令については、試験を実施する日の属する年度の4月1日現在施行されている法令に関して出題します。 |
「行政書士の業務に関し必要な基礎知識(出題数14題)(令和6年度試験から適用) | 一般知識、行政書士法等行政書士業務と密接に関連する諸法令、情報通信・個人情報保護及び文章理解の中からそれぞれ出題し、法令については、試験を実施する日の属する年度の4月1日現在施行されている法令に関して出題します。 |
(引用: 一般財団法人行政書士試験研究センターホームページより)
・公務員
「国家公務員」「地方公務員中級」など受験する区分によって異なる。また都道府県によっても異なる。
行政書士試験の科目 | |
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第一次試験 | ・教養試験(技術以外の試験区分) 一般教養についての五肢択一式(40題必須解答) ・専門試験(行政) 職務に必要な専門知識についての記述式(10題中3題選択解答) ・論文 |
第二次試験 | ・口述試験 課題式(1題必須解答) |
(参考: 東京都職員『1類B採用試験(一般方式)』行政より)
合格率
合格率の比較 | |
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行政書士 | 平均11%程度 (2023年度の合格率は13.98%) |
公務員 | ※各地方自治体によって異なる (参考)(参考)令和5年度東京都職員 『1類B採用試験(一般方式)』行政の合格率は約29% |
勉強時間の目安
勉強時間の目安比較 | |
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行政書士 | 平均500時間以上 (初心者や独学の場合は1000時間以上) |
公務員 | ※受験する区分によって異なる (参考)地方公務員中級の場合は約500~800時間 |
難易度
行政書士と公務員の難易度は一概に比べられるものではありませんが、どちらも憲法や法律などの専門知識を求められるため、容易に受かるものではありません。
どちらも目安の勉強時間は500時間を超えており、計画的にスケジュールを引いて勉強する必要があります。独学が不安な人は、通信やスクールなどの利用を検討するのもよいでしょう。
公務員から行政書士を目指すメリット
公務員から行政書士を目指すメリットはどのようなものがあるでしょうか?順番に解説します。
業務に親和性がある
行政書士は官公署に提出する公的書類を作成するのが主な業務であり、公務員は提出された書類を審査・管理するのが仕事です。業務内容は大きく共通する部分があり、二つの業務は親和性が高いといえます。
まったく新しい職にチャレンジするよりも業務内容のイメージがつかみやすく、比較的スムーズに仕事に取りかかれることが考えられます。また、公務員として各種書類の取り扱いに慣れており、提出書類が精査されるポイントなどを熟知していれば、作成する際も注意点がよくわかり、行政書士の実務は非常におこないやすくなるでしょう。
特認制度が利用できる
特認制度が利用できることも魅力の1つです。前項で記載したとおり、行政書士試験はやさしい試験ではありません。法律の知識を深くまで要求されますし、たとえ公務員として行政事務に関わっていたとしても、ある程度まとまった勉強時間を確保する必要があります。
そのため、すでに規定期間を満たしている、ないしはまもなく規定期間を満たす場合は、特認制度が利用できることは大きなメリットになるといえます。
退職後に仕事ができる
行政書士には大きく分けて二つの働き方があり、法人に所属して働く、独立開業して働くという方法があります。
後者の場合定年がないので、公務員を退職後も行政書士の仕事ができます。退職後まったく新しい職業につくのは大変ですが、行政書士であれば業務内容も共通する部分が多く、扱ったことのある書類の作成であればよりスムーズに仕事に取り組むことができます。
また、退職間際であれば、ほとんどの方が特認制度の利用条件を満たしていると考えられるため、試験が免除されるのも大きなメリットです。
公務員から行政書士を目指す時の注意点
最後に、公務員から行政書士を目指す際の注意点をいくつかご紹介します。
特認制度はすぐに利用できない
行政書士試験が免除される『特認制度』の利用には、最短17年以上(中卒であれば20年以上)の勤務が必要です。そのため、早くから行政書士でキャリアを積みたいという場合は、希望に沿わない可能性があります。
その場合、一度公務員になるよりも最初から行政書士試験を受ける、または行政書士の補助者として働きながら資格試験の合格を目指す、といったキャリアを選んだほうが、結果的に経験値も人脈も得ることができるかもしれません。
また行政書士になったからといって、仕事が自動的に舞い込んでくる訳ではありません。独立開業する場合、依頼してくれるクライアントを探すところから始めなくてはいけません。クライアントの信頼は一朝一夕で積み上がるものではないので、早くから独立開業して行政書士としてのキャリアを積みあげていく方が、結果的に信頼できる人脈と高収入を得られる場合もあるでしょう。
特認制度を使っても認定されない場合がある
公務員として規定期間勤めていたからといって、必ずしも特認制度が利用できる訳ではないことには注意が必要です。
行政書士の登録には審査が必要であり、特認制度を使う際には各都道府県の行政書士会に従事してきた職務内容について提出する必要があります。公務員として従事してきた職務内容によっては、審査が通らない可能性もあることにはご注意ください。
また行政書士法第二条の四項により、公務員で過去懲戒免職の処分を受け、処分の日から三年を経過していない場合も認定されません。
公務員と行政書士の兼業はNG
原則、公務員は規定により兼業が禁止されています。
行政書士についても例外ではなく、在職中は副業として行政書士をおこなうことはできません。
行政書士になる場合は、公務員を退職した後に行政書士登録をおこなう必要があります。
公務員は受験資格に年齢制限が設けられていることが多く、一度やめてしまえば再入職したい場合再度試験を受ける必要が出てきます。今後のキャリアプランをしっかりと考えたうえで、行政書士への転職は考えましょう。