なぜ「行政書士はやめとけ」と言われるのか
早速ですが、なぜ行政書士はやめとけと言われてしまうのでしょうか。具体的に行政書士の受験をやめた方がいいと言われる理由について、根拠となる情報や検証を含めて解説します。
行政書士は人口が多い
行政書士試験に受験資格は設けられておらず、年齢や職業に関わらず誰でも受験することができます。確かに毎年の受験者数は増加傾向にあり、受験者数に比例して行政書士の登録人数も増加しているといえます。
また、弁護士、弁理士、公認会計士、税理士の資格を持っている場合、行政書士試験を受けなくても行政書士として登録することが出来るのも数が多いと言われる理由の一つかもしれません。
実際令和4年度のデータでは、行政書士の登録者数は全国で51,041人います(参考:総務省『【表1】行政書士の登録状況(令和4年度)』より)
全国で5万人もいれば、新しく独立したとしても仕事が回ってこないのでは?と不安になる気持ちも起こります。
ただ行政書士の業務の範囲は非常に広く、許認可申請だけでその種類は一万を超えます。行政書士にもそれぞれの専門分野があり、単純に依頼数に対して有資格者の数だけで十分であるとはいえません。また登録者の中には退職者も多く、顧客を絞ってゆったり働いている方や副業として行っている方、ほとんど稼働していない人もいるので5万人がフル稼働している訳ではないのが現状です。
「令和5年行政書士実態調査集計結果」によると、18歳〜30歳の行政書士は何と全体の0.8%だったという結果が出ています(参考:月刊 日本行政 2024年3月号より)もちろん分母が100%ではないので参考数値ではありますが、将来的にはチャンスだとも捉えられるのではないでしょうか。
独占業務が少ない
また行政書士は他の士業に対して「独占業務が少ない」と言われることもあります。行政書士の独占業務とは一言でいうと、「官公署に提出する書類や事実証明・権利義務に関する書類の作成代理」です。
これだけ聞くと非常にシンプルで確かに少ないと思われがちですが、独占業務とは「該当の資格者のみが扱うことのできる業務」であって、仕事がそれだけしかないという意味ではありません。先に記載した通り、行政書士の主業務である許認可申請は一万以上の種類があると言われています。
また独占業務とされている申請も三十種類以上の数があるので、少ないといえるかは個人の尺度によるでしょう。
独立しても失敗する人が多い
行政書士は独立開業を目指せる資格ですが、独立しても失敗する人が多いと言われています。これに関しては事実だといえるでしょう。
令和5年度のデータでは、新規登録者数2,713人に対し、登録が取り消されたのは1,958人、その中でも1,592人が自分から廃業届を提出しています。(参考:総務省『【表1】行政書士の登録状況(令和4年度)』より)
また行政書士の3年以内の廃業率は6割とも言われており、少なくない数が独立に失敗しているのは確かです。加えて行政書士の仕事は基本単発なので、税理士や弁護士のように顧問契約をとって月々の契約料を頂くというような定期収入もありません。
ただ独立開業は、行政書士に限らずどんな職でも廃業のリスクがあります。独立すれば仕事は自分で取ってくる必要があることは、あらかじめ承知しておく必要があるでしょう。
就職・転職が難しい
行政書士の求人はそう多くないと言われています。実際に令和5年度の有効求人倍率を見てみると全国で0.48倍となっています。(参考:職業情報提供サイトjobtagより)令和5年3月の有効求人倍率は1.32倍となっているので、確かに少ないといえます。(参考:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和5年3月分及び令和4年度分)」より)
行政書士が働く主な就職先は法務事務所になります。法務事務所とは、弁護士以外の士業が開業する事務所のことです。行政書士は独立開業する人も多いため、別の行政書士を雇い入れる事務所は少なくなりがちです。
また行政書士として一般企業に雇われることは、各都道府県の行政書士会で禁止されており、一般企業に就職するのであればあくまで社員としてになります。
行政書士を持っているから就職や転職が著しく有利になることはない、というのはその通りです。ただ、行政書士は国家資格であり、難関な試験を突破した経験というのは就職時にアピールポイントとなりますし、企業の法務部などにとっては法律の知識がある行政書士資格は魅力になります。伝え方によって十分プラスになりますし、決してマイナスにならないのは間違いありません。
試験の難易度が高い
行政書士試験の合格率は大体11%程度で推移しています。
下記が直近5年間の受験者数と合格者数、合格率です。十人受けたら九人が落ちるので難関といえるでしょう。
年度 | 受験申込者数 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|---|
令和5年度 | 59,460 | 46,991 | 6,571 | 13.98% |
令和4年度 | 60,479 | 47,850 | 5,802 | 12.13% |
令和3年度 | 61,869 | 47,870 | 5,353 | 11.18% |
令和2年度 | 54,847 | 41,681 | 4,470 | 10.72% |
令和元年度 | 52,386 | 39,821 | 4,571 | 11.48% |
(参考:一般財団法人行政書士試験研究センターホームページより)
合格に必要な勉強時間は大体500時間程度と言われています。法律に関する予備知識がない方、つまり初心者が試験を受ける場合は1,000時間程度の勉強時間が必要だと言われており、試験の難易度は確かに高いので、計画的に勉強する必要があります。
将来的にAIに取られる仕事である
最後に行政書士の仕事は「将来的にはAIに取られる仕事だ」と言われていることがあります。確かに各種申請書類はフォーマットが決まっており、内容を記述するだけであれば将来的にAIに取って代わられる仕事といえるかもしれません。
ただ実際のところ、申請書類の記入は単純作業ではなく、顧客への聞き取り、解決策の提示、場合によっては現地調査が必要になります。また、普通に記載すれば通すのが難しい申請をどうすれば通せるのかを考えるのも行政書士の業務の内なのです。そういった仕事をAIが代替できるとは考えにくく、将来的にAIに取られる範囲は行政書士の仕事のうち一部だといえるでしょう。
本当に行政書士は稼げない?
ここまでは「行政書士はやめとけ」と言われる理由を見てきました。では次に、行政書士は本当に稼げない職業なのかを検証してみます。
行政書士の平均年収
厚生労働省の調査によると、行政書士の年収は約580万といわれています。(参考:職業情報提供サイトjobtagより)
対して、国税庁が発表した「令和4年分 民間給与実態統計調査」によると、日本の平均年収は458万円です。
いかがでしょうか。単純計算ではありますが、平均年収だけ取ってみれば、日本の平均年収を100万円以上、上回っている計算です。稼げないというには少し無理がある数値に思えます。
また、行政書士の年収内訳のうち36%は600万以上、内9%は1000万を超えています。業務の経験に応じて実績と信頼が積み上がるので、給与の推移も年齢が上がれば上がるほど高くなっていきます。(出典「MS-Japan調べ」)
独立の失敗は行政書士資格だからではない
ただ、調査では行政書士の32%が399万円以下の年収とも出ていました。稼げないと言われる所以は恐らくこの32%に起因するのではないかと考えられます。
行政書士は独立開業している人が8割を占めると言われていますが、前述した通り独立に失敗する人も少なくありません。独立開業すると、自分で営業し仕事を取ってくる必要があります。例えば、人とコミュニケーションすることが苦手で営業ができなかったり、コネクションが全くないまま独立したりして、結果的に苦しい状況に陥ることは十分考えられます。これらは「行政書士だから稼げない」のではなく、「仕事を取れないから稼げない」が正しいです。不安な方は法務事務所で実務の実績を積んだり、一般企業の法務部に勤めて行政書士の知識を活かしながら副業で行政書士を初めてみたりと、実力を得る様々な方法が考えられます。
またネットの情報では、失敗した人が書く記事がどうしても目立ちます。成功している人はわざわざ成功していることをネットに書き込まないからです。なので、ネットの情報に惑わされすぎず、信頼できる機関の情報を参考にしながら、最終的には自分で考えて決めることが大切です。
行政書士になって稼ぐためには
最後に、行政書士になって稼ぐために、事前に何が出来るかをご紹介します。
幅広い知識を身につける
行政書士の業務の範囲は非常に広いため、試験で習ったこと以上に幅広い知識が必要とされます。例えば、許認可申請一つとっても申請のことしか分からないのと、その業界の知識を有しているのでは信頼度は確実に変わるでしょう。
もちろん全ての分野に対して均等に知識を深めることは不可能です。ただ需要のある分野については背景情報も含めて知識を身につけておくことで、自分の武器となるのは間違いありません。
マーケティングスキルを身につける
また、マーケティングスキルを身につけることも、稼げる行政書士になるためには有効な方法だと考えられます。
「令和5年行政書士実態調査集計結果」によると、行政書士の半分以上は50歳以上だというデータが出ています。40歳以下の行政書士は全体の10%に満たないのです。(参考:月刊 日本行政 2024年3月号より)若い世代が少ないので、若いことを逆に武器にすることも出来るでしょう。
例えば最近では20代で独立開業する人も珍しくありません。そんな人たちにとっては、40代以上の人より同じ20代や少し上の30代の世代の方が相談しやすいケースもあるかもしれません。20〜30代をターゲットにするのであれば、集客方法は口コミよりSNSかもしれません。行政書士という職種を知らない人も多いでしょう。そういった方に分かりやすくホームページを整えることで目につく可能性が上がるかもしれません。
例えば、顧客が開業したいのが飲食業であれば、開業届からの飲食店営業許可にかかる申請まで依頼として受けられますね。何が自分の武器で、どうすればアピールできるかを考える際には、マーケティングスキルはとても有用なスキルです。
強みとなる専門分野を作る
行政書士が取り扱うことのできる業務は多岐に渡ります。営業の観点からも「何でも出来ます」は「何の特徴もない」とも捉えられ、依頼したい顧客にとっては魅力に思える点が乏しくなります。
そのため、早くから専門分野を作って打ち出していくことは非常に重要です。専門分野を作ることで、顧客は信頼して依頼しやすくなり、また不得意な分野の仕事は入ってきづらくなります。
ただし専門分野はあまりにニッチなものにしてしまうと、依頼の絶対数自体が少なくなり、依頼数が現象してしまうので、分野の選定も慎重に行うことが大切です。参考ばかりに一例をあげると、建設業務や運送業務、入管業務、相続業務、補助金申請、風俗営業許可、飲食店営業許可、無人航空機の飛行許可(ドローン)などはニーズのある分野といえます。