行政書士と税理士の違い
行政書士と税理士はそれぞれ国家資格が必要な専門家ですが、具体的な業務はどう違うのでしょうか?
下記の表は行政書士と税理士の違いを簡単にまとめたものです。
行政書士 | 税理士 | |
---|---|---|
仕事内容 | 官公署に提出する許認可等の申請書類の作成や提出手続き代理など、行政に提出する書類の作成・申請 | 税務に関する書類の作成や手続き 企業や個人に対しての、税金に関する相談・アドバイス |
独占業務 | 官公署に提出する書類や事実証明・権利義務に関する書類の作成代理 | 「税務代理」「税務書類の作成」「税務相談」の三つ |
年収 | 551.4万円 | 746.7万円 |
年収参考:職業情報提供サイトjobtagより
詳しく解説していきます。
仕事内容
行政書士
行政書士の仕事は主に行政に提出する許認可等の申請書類の作成や提出手続き代理などです。
仕事には大きく「書類作成業務」「手続代理業務」「相談業務」があります。扱う書類は官公署に提出する書類、権利義務に関する書類、事実証明に関する書類、その他「出入国管理」や「難民認定法」に定められている申請などの特定業務です。
行政書士の業務の範囲は非常に幅広く、申請の種類は一万を超えると言われています。そのため行政書士は専門分野を持って仕事をしている人が多く、それぞれ得意分野が違います。
行政書士の就職先は主に士業事務所で、また8割は独立開業しています。一般企業の法務部などに務めるケースもありますが、行政書士として一般企業で働くことは出来ませんので、行政書士の知識を生かして働いているというのが正しいです。
税理士
税理士の仕事は、税務に関する書類の作成や手続き、相談に特化しています。
具体的には個人事業主などが行う確定申告のサポート、記帳代行、企業の決算のサポートや年末調整のサポート、税務関連書類の申告、税務調査の立ち合いなどが業務です。
また、税務と会計は切っても切り離せない関係にあります。そのため、税務に関わらず企業や個人に対しての会計全体の相談・アドバイスも業務の一環として行っている税理士が多いようです。事業の資金繰りや経営相談を行っている事務所も数多くあります。
税理士の就職先は、主に税理士事務所や会計事務所などの士業事務所です。また一般企業で働く場合は経理部に務めるケースが多いようです。行政書士同様、経験を積んで独立する人も多いのが特徴です。
独占業務
行政書士
行政書士の独占業務は大きく分類して三つあります。
「官公署に提出する書類の作成」「権利義務に関する書類の作成」「事実証明に関する書類の作成」す。該当申請は全部で三十種類以上あります。
例えば、以下のような申請が行政書士の独占業務です。
- 建設業許可申請
- 宅地建物取引業免許許可申請
- 農地転用許可申請
- 飲食店営業許可申請
- 酒類販売業免許申請
- 旅館営業許可申請
- NPO法人設立認証申請
- 医療法人設立許可申請
税理士
税理士の独占業務も主に三つあり、「税務代理」「税務書類の作成」「税務相談」が独占業務に当たります。
具体的には、税務に関する申告(確定申告等)・申請(⻘色申告の承認申請等)・請求・不服申し立てや税務調査の立ち会いや処分に対する主張・陳述などの代理が可能です。
また、税務に関する申告書(確定申告書等)・申請書・請求書・不服申立書・計算書や明細書を納税義務者に代わって作成したり、税務に関する申告等や税務書類の作成など税に関するあらゆる相談を受けることができます。
税理士の独占業務は「無償独占業務」に分類されます。これはたとえ無償であっても、税理士の独占業務を資格のない人が受けることはできない、ということです。
年収
行政書士
厚生労働省の調査によると、行政書士の年収は約580万円といわれています(参考:職業情報提供サイトjobtagより)
また年収内訳のうち36%は600万以上、内9%は1000万を超えています。業務の経験に応じて実績と信頼が積み上がるので、給与の推移も年齢が上がれば上がるほど高くなっていきます。(出典「MS-Japan調べ」より)
税理士
厚生労働省の調査によると、税理士の年収は約746.7万円です(参考:職業情報提供サイトjobtagより)
行政書士より150万以上近い計算になっており、より専門性が高いことが伺えます。
試験の難易度の違い
では続いて試験の制度や難易度について比較してみましょう。簡単にまとめると両者の違いは下記の図の通りです。
行政書士 | 税理士 | |
---|---|---|
試験制度 | ・受験資格は特になし ・憲法や行政法、民法など法令からの主題と、行政書士の業務に関連する一般知識からの出題 |
・学歴・資格・職歴いずれかの受験資格が必要 ・試験は科目選択制。必須科目2科目と、選択科目3科目の計5科目。 |
合格率 | 10〜13% | 17〜19%(※科目ごとの合格率、最終合格者の合格率ではない) |
勉強時間 | 500時間(初心者の場合1000時間程度) | 2000〜3000時間 |
順番にみていきましょう。
試験制度
行政書士
行政書士試験は年齢、学歴、国籍等に関係なく、誰でも受験できるのが特徴です。毎年11月頃に実施されます。
試験内容は主に二つに分かれており、憲法や行政法、民法など法令からの主題と、行政書士の業務に関連する一般知識からの出題に分かれます。
試験科目は下記の通りです。
試験科目 | 内容等 |
---|---|
行政書士の業務に関し必要な法令等(出題数46題) | 憲法、行政法(行政法の一般的な法理論、行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法及び地方自治法を中心とする。)、民法、商法及び基礎法学の中からそれぞれ出題し、法令については、令和5年4月1日現在施行されている法令に関して出題します。 |
行政書士の業務に関連する一般知識等(出題数14題) | 政治・経済・社会、情報通信・個人情報保護、文章理解 |
(参考:一般財団法人行政書士試験研究センターホームページより)
また行政書士試験の合格基準は明確に示されており、下記の通りとなっています。
(1)行政書士の業務に関し必要な法令等科目の得点が、122点以上である者
(2)行政書士の業務に関連する一般知識等科目の得点が、24点以上である者
(3)試験全体の得点が、180点以上である者
税理士
税理士試験の受験資格には「学歴」「資格」「職歴」の三つの受験資格の内いずれかの資格が必要です。詳細は下記の通りです。
学歴 | ・大学、短大又は高等専門学校を卒業した者で、社会科学に属する科目を1科目以上履修した者 ・大学3年次以上で、社会科学に属する科目を1科目以上含む62単位以上を取得した者 ・一定の専修学校の専門課程を修了した者で、社会科学に属する科目を1科目以上履修した者 ・司法試験合格者 ・公認会計士試験の短答式試験に合格した者 |
資格 | ・日商簿記検定1級合格者 ・全経簿記検定上級合格者 |
職歴 | ・法人又は事業行う個人の会計に関する事務に2年以上従事した者括弧証明書類 ・銀行、信託会社、保険会社等において、資金の貸付け・運用に関する事務に2年以上従事した者 ・税理士・弁護士・公認会計士等の業務の補助事務に2年以上従事した者 |
また税理士資格の試験は科目選択制です。
受験する科目にはルールがあり、下記が一覧です。
科目種別 | 科目名 | 必須区分 |
---|---|---|
会計学に属する科目 | 簿記論 | 必須 |
財務諸表論 | 必須 | |
税法に関する科目 | 所得税法 | いずれかを選択 |
法人税法 | ||
相続税法 | 2科目を選択(※) | |
消費税法 | ||
酒税法 | ||
国税徴収法 | ||
住民税 | ||
事業税 | ||
固定資産税 |
※ただし「消費税法と酒税法」、「住民税と事業税」はそれぞれ両方選択することはできません。
税理士試験では、全ての科目を一度に受験し合格する必要はなく、1科目ずつ受験することが可能です。科目ごとに合否判定され、合格科目に有効期限はないので、一気に全ての合格を目指すのではなく、毎年1〜2科目を重点的に勉強して合格を目指すという方法もあります。
合格率
行政書士
行政書士試験の合格率は大体10~13%程度で推移しています。
下記が直近5年間の受験者数と合格者数、合格率です。昨年度は13.98%と比較的高かったようですが、十人受けたら九人が落ちるので難関といえるでしょう。
税理士
税理士試験の合格率は17〜19%程度です。
ただしこの数値は各科目の合格率の平均値に当たり、合格者の平均値ではないことに注意が必要です。税理士試験に合格するためには合計5科目の合格が必要となり、17〜19%の合格率の試験に計5回合格する必要があります。
そのため非常に難関だと言えます。
勉強時間
行政書士
行政書士試験合格に必要な勉強時間は大体500時間程度と言われています。ただし法律に関する予備知識がない方、つまり初心者が試験に合格したい場合は1,000時間程度の勉強時間が必要だと言われています。
初心者の場合、毎日3時間勉強したとしても1年近く、5時間勉強したとしても半年以上の期間が必要です。仕事をしているか否かで平日・休日でとれる勉強時間も変わってくるので、スケジュールを立てて計画的に勉強する必要があります。
税理士
税理士の勉強時間は、行政書士に比べてもっと長く、大体2000〜3000時間だと言われています。
単純計算して、毎日3時間勉強したとしても3年近くかかります。税理士試験は合計5科目の合格が必要であり、毎年2科目を合格する、といった心づもりで挑戦することが大切です。
またこの勉強時間はスクールや通信講座を受講することによって大幅に短縮できる見込みもあります。
行政書士と税理士はダブルライセンスも可能
行政書士と税理士は業務の相性が良いので、ダブルライセンスを目指すのもおすすめです!ダブルライセンスのメリットと取得方法をそれぞれ紹介します。
ダブルライセンスのメリット
ダブルライセンスを取得することで、芋づる式に受託できる仕事の幅が増えるというのが大きなメリットです。
行政書士は官公署に提出する許認可等の申請書類の作成や提出手続き代理のプロフェッショナルであり、各種申請が伴う開業時や新規事業の立ち上げ時には必要とされる士業です。
一方税理士は顧客が事業を立ち上げてから、経費の管理や税の申告などについてサポートする士業です。
二つのライセンスを持っていることで、開業からその後税理士として顧問契約を結ぶことで一気通貫のサポートを行えます。
また税理士は顧客のお金周りを総合的にサポートする機会が多く、顧客から経営についての相談を受けるケースも多くあります。開業時だけでなく事業の拡大展開など多岐なども、申請段階からサポート出来るのは強みですね。
ダブルライセンスの取得方法
ダブルライセンスの取得方法は先にどちらの資格を取得するかによって異なります。
行政書士を先に取得した場合
行政書士を先に取得した場合は、税理士の資格試験に合格する必要があります。
すぐに資格を活かして働きたい方は行政書士を先に取得するのがおすすめです。税理士試験の難易度は高く、行政書士の資格取得の方が比較的難易度が低いからです。行政書士としての経験を積みながら、税理士試験の勉強をしていくといいでしょう。
税理士を先に取得する場合
税理士資格を先に取得した場合、行政書士の資格は試験免除となり、手続きのみで取得可能です。登録を希望する都道府県の行政書士会に、必要書類を揃えて登録手続きを行いましょう。
行政書士の初期登録費用は30万円程度かかります。その他にも行政書士会の登録費用が毎月かかってきますので、登録を行う場合は、行政書士の業務も請け負える環境を整えてから始めるのがおすすめです。
行政書士と税理士どちらがおすすめ?
最後に、行政書士と税理士はどちらも業務の内容が異なるため、自分にあった士業を選ぶことが大切です。ここでは行政書士、税理士に向いている人についてそれぞれ紹介しましょう。
行政書士に向いている人
行政書士に向いているのは以下のような人です。
- 一人でコツコツと作業するのが好きな人
- 作業を正確に行うのが得意な人
- 初対面の人と話すのが好きな人
- 早く独立開業したい人
行政書士の作成する書類は、官公署など公的な場に提出するものであり、内容が正確であることが重要です。正確に書類を作成し、見直しを苦にしない人に向いていると言えます。また基本的に行政書士は単発で仕事を受注するため、初対面の人との会話スキルは税理士よりも重要であると言えます。
税理士に向いている人
税理士に向いているのは以下のような人です。
- 経営に興味がある人
- 数字に強い人
- じっくり長く人と付き合っていきたい人
- 正義感の強い方
税理士は顧問契約という形で長期的に顧客と契約を結ぶ士業です。時に経営相談にも乗りながら、長期的に誰かと付き合っていくことが好きな方に向いているといえます。また税金に関しては、時に毅然とした姿勢で顧客に意見することが求められるので正義感が強い方が望ましいでしょう。
また、どちらの士業も机上の業務が多いように思われがちですが、顧客とのコミュニケーションを必要とする業務です。相手から信頼関係を得ることが非常に重要なので、コミュニケーション能力は必要とされます。