行政書士は副業になるのか
結論から言うと、会社員として働いていても行政書士で副業をすることは可能です。
行政書士は独立開業できる職業であり、パソコンなどの設備が揃っていれば自宅で仕事をおこなうことができるからです。
ただし副業として行政書士の仕事をする場合は、各都道府県の行政書士会に誓約書を提出する必要があります。
行政書士の業務は責任のある仕事です。行政書士を副業とする場合、メリットだけではなく、デメリットや注意点にも気をつける必要があります。
副業で行政書士をするメリット
副業で行政書士をするメリットはたくさんあります。順番に解説していきましょう。
独立して働く準備ができる
行政書士の資格を取得したとしても、今勤めている会社をすぐにやめるのは不安が大きい人もいると思います。また行政書士は独立開業に適した仕事ですが、独立したら自動的に依頼が舞い込む訳ではなく、自力で仕事を探さなければなりません。本当に必要な収入を稼げるのかと不安になることもあるでしょう。
そこでまず副業として行政書士の業務に取り組むことで、本格的に独立する前に行政書士の実務を経験し、独立開業に備えることができます。またこの期間に信頼できる顧客を増やしていくこともできるでしょう。何より本業の収入は担保できるので、資金面の不安がありません。
もちろん行政書士の仕事が純増する分大変にはなりますが、行政書士で独立開業することを目指すためにはおすすめです。
収入を増やせる
副業をすることで、行政書士の仕事分収入が純増します。本業での収入が安定していれば、収入にこだわらず自分に無理のない範囲で働くことができるのもメリットです。
最初から順調に仕事が舞い込む訳ではありませんが、コツコツと地道に信頼を築いていくことで、副収入としても安定した収入を得ることができるでしょう。
自宅で仕事ができる
行政書士はアルバイトやパートなどと異なり、事務スペースや接客スペース、パソコンなどの必要設備さえ整っていれば自宅で仕事ができます。必要な設備については各都道府県の行政書士会にルールが記載されていますので、事前に確認しましょう。
自宅で仕事ができることは、副業で行政書士をする大きなメリットになるでしょう。
定年後の将来に備えることができる
行政書士は独立開業できるので定年退職がなく、生涯現役で収入源を確保できます。行政書士の資格を持っていることで、定年後の将来に備えることができます。
また定年退職するまでに副業として取り組んでおき、定年後に本業とすることで、定年後いきなり独立開業して行政書士の仕事をするよりもスムーズに実務に取りかかれるでしょう。仕事の内容や、ある程度依頼してくれる顧客との信頼関係ができあがっていることは、本業にする時にも安心材料となるはずです。
副業で行政書士をするデメリット
行政書士の副業を行うには、デメリットといえる部分もあります。行政書士として副業を行う時のデメリットを順番に解説します。
平日の昼間の時間確保が必要
行政書士は、官公署へ提出する公的書類を作成・提出するのが主な仕事です。そのため行政書士がおこなう申請業務は、官公署が空いている平日の昼間におこなう必要があります。
基本的に官公署は土日や祝日・夜間などは稼働していません。書類の作成は土日などの休日におこなうことができても、提出・申請に関しては平日の昼間に官公署を訪れる必要があります。会社員の場合、平日の昼間は本業の業務をおこなっている場合が多いと思います。本業が時間調整が難しい職場で、平日の昼間に時間が取れないという人は、受けられる仕事の選択の幅が狭まるのは避けられません。
また、行政書士は業務によっては依頼主と打ち合わせが必要な場合もあり、依頼主の予定に合わせるのが難しい場合も仕事を受けづらくなります。
このように行政書士はある程度時間を指定して働く必要が出てくるので、本業が時間に融通がきく仕事でない場合、副業としてのハードルは上がるでしょう。
本業に支障が出るリスクがある
行政書士の仕事は幅広く、仕事を得るための営業活動や業務に関わる事務作業、また主務である申請書類の作成・提出までを一人でおこなう必要があります。また顧客との打ち合わせのために、本業の予定を調整しなければならない場面も出てくるかもしれません。
行政書士の仕事が忙しくなれば、本業の仕事を圧迫する可能性があり、本業に支障を出してしまうリスクもあります。
副業として行政書士の仕事をおこなう場合は、本業とのバランスを見ながら、どちらの仕事も責任を持って取り組める量に自分で調整していくことが非常に重要になります。
副業が可能な業務と難しい業務
行政書士の仕事には大きく「書類作成業務」「手続代理業務」「相談業務」があります。扱う書類は官公署に提出する書類、権利義務に関する書類、事実証明に関する書類、その他「出入国管理」や「難民認定法」に定められている申請などの特定業務です。
では具体的に副業が可能な行政書士の業務はどれに当たるのでしょうか?反対に副業が難しい業務も合わせてご説明します。
副業が可能な業務
基本的には必要な書類を郵送やインターネットで申請可能なものが取り組みやすい業務となります。
申請が郵送で構わない場合、仕事の休日に書類を作成し申請までおこなうことが可能だからです。
例えば、「車庫証明業務」や「相続業務」がこれにあたります。特に車庫証明業務については、顧客との打ち合わせも必要ないためスムーズにおこなうことが可能です。
平日の昼間に動くことが可能であれば、官公署に提出する書類の作成・申請業務も請け負うことができます。また、本業のスケジュールが自由に調整できるのであれば「宅建業免許」や「飲食店営業許可」の申請手続き、「補助金申請」などの顧客との打ち合わせが必要な申請もスケジュールを合わせて、取り組むことができるでしょう。
副業が難しい業務
顧客との打ち合わせが何度か必要になる申請や個別の状況に合わせて作成が必要な書類は、副業でおこなうには不向きな業務だといえます。
例えば「離婚協議書」や「内容証明」などの作成は個別事情に合わせての作成が必要になります。本業の就業時間中に顧客への確認が何度も発生してしまうと、本業に支障が出てしまいます。
また本業の就業時間が平日の昼間である場合、官公署へ出向いて書類提出が必要な業務を請け負うのはリスクが高いでしょう。
完全在宅や土日のみの副業は可能?
平日は本業があるので土日のみで行政書士の副業がしたい、在宅で副業がしたいというのは実際のところ可能なのでしょうか。
まず土日のみで行政書士の副業がしたい場合ですが、前述したとおり「車庫証明業務」や「相続業務」などの郵送で申請ができる業務であれば問題なく請け負うことができるでしょう。
次に、在宅での副業はもちろん可能です。在宅で仕事ができるのは行政書士の大きなメリットの1つです。ただし在宅での開業には、各都道府県の行政書士会が定めた設備要件を満たす必要があります。
たとえば、東京都行政書士会では設置基準は下記の通り定められています。
第3条事務所の設備は、概ね次のとおりとする。
一.事務スペース及び接客スペースがあること
二.照明及び第五号から第七号記載の機器を作動させるための電源設備及び通信回線設備
三.事務用机・椅子
四.書類等保管庫(容易に移動できないもの、鍵がかかるもの)
五.電話
六.プリンター・FAX・コピー機等
七.パソコン等
八.用紙、事務用品等収納庫又は収納棚
九.業務用図書及び図書棚
(引用: 東京都行政書士会ホームページより『東京都行政書士会行政書士事務所設置指導基準』)
また、すべての業務を在宅で完結できるわけではありません。
申請書類の作成などは在宅でおこなうことができますし、顧客との打ち合わせをオンラインでおこなうことも可能です。ただし書類の提出業務については、官公署に書類を提出しなければならない場合があります。また顧客の元へ訪問して打ち合わせをおこなう場合なども外出しなければなりません。
業務や顧客によって変動しますので、完全在宅で完結できるケースは少ないとあらかじめ考えておいたほうが、ギャップが少なくて済みます。
副業で行政書士を始めるやり方
では具体的に副業で行政書士を始める手続きを解説します。
試験に合格する
行政書士は、行政書士法によって定められている国家資格であり、資格取得のためには毎年11月に行われる行政書士試験に合格する必要があります。
行政書士の資格試験は、憲法、行政法、民法、商法など、行政書士の業務に関して必要な法令や業務に必要な基礎知識から幅広く出題されます。
勉強時間は初心者や独学の場合は1000時間以上と言われており、計画的な勉強が必要です。
行政書士登録を行う
行政書士として働くには各都道府県の行政書士会を経由して、日本行政書士会連合会の登録を受ける必要があります。
該当する都道府県の行政書士会に申請書を提出すると、行政書士会から日本行政書士会連合会に通達され、審査が行われます。審査が無事通り、登録が完了すれば、行政書士としての業務を行えます。
開業届を提出する
行政書士の登録が終われば、税務署に開業届を提出しましょう。開業届はオンラインでの提出も可能です。
また、会社員をしながら副業として行政書士をする場合でも、開業届の提出は必要になります。
仕事を探す
行政書士として行政書士会に登録され、開業届を提出すれば、行政書士の仕事を行えますが、依頼が斡旋される訳ではありません。自分で仕事を探す必要がありますので、Webや知人から副業で無理のない範囲で仕事を探すようにして、業務に慣れていきましょう。
行政書士の副業をする注意点
最後に、行政書士の副業をする時の注意点について5点解説します。
本業の副業規程を確認する
行政書士の仕事は、副業で行っても特に問題はありません。
ただし本業の勤め先の就業規定は別です。勤め先によっては、副業が禁止されているケースもありますので、副業を始める前に必ず本業の就業規則を確認しましょう。会社によって副業に条件を設けている場合や、副業申請が必要な場合もあります。
また公務員は兼業が禁止されていますので、基本的に行政書士の副業はできません。
官公署の開庁時間に注意する
官公署の業務時間は平日の日中であることがほとんどです。開庁時間と閉庁時間、閉庁日などをあらかじめ確認しておくことが大切です。
認可申請をおこなう場合、業務によっては役所の担当者への問い合わせや確認のやりとりが発生する場合もありますし、そもそも開庁時間に時間を作らなければ申請ができない場合も多々あります。
スムーズに手続きを進めるためにも、官公署の開庁時間を把握し本業のスケジュールの調整を行えるようにしましょう。
確定申告を必ず行う
本業で年末調整を行っているから大丈夫だと思っている方も、本業とは別に収入を得ている場合、副業で得た利益が年間20万円を超えた場合に確定申告が必要です。
行政書士の副業の場合も例外ではありません。行政書士の業務にかかった経費や、行政書士会への登録料・会費などは経費として計上可能なので、自分できちんと管理して、正しく確定申告をおこないましょう。
行政書士の業務に責任を持つ
依頼主にとっては、依頼する行政書士が副業か本業かは関係がありません。
たとえ行政書士の仕事が副業であっても、請け負うからには、依頼された仕事には責任が生じます。官公署に提出する書類は公的なものであり、書類にミスがあってはいけませんし、もしミスがあれば顧客に大きな迷惑がかかります。また、作成した書類のミスはそのまま自身の信用問題につながることも忘れてはいけません。本業が繁忙期で副業に集中できないとあらかじめわかっている期間は、依頼を受けるのを控えるなど自分で区切りをつけなければいけません。
行政書士の副業を始めるのであれば、本業とは区別せずに、最後まで責任を持って取り組むことが大切です。
一般企業に行政書士として務めてはいけない
行政書士として一般企業に雇われることは、各都道府県の行政書士会で禁止されています。そのため、行政書士として仕事をするためには、自分自身が事業者になる必要があります。
行政書士に登録したからといって、行政書士の業務を本業の一般企業でおこなうことはできませんので、ご注意ください。