合理的配慮とは
合理的配慮とは、障がいのある方が、障がいのない方と同様に基本的人権が尊重され、教育や就業、社会生活への平等な参画が出来るよう、障がいの特性に合わせて行われる配慮のことを指します。
2014年に批准された「障がい者の権利に関する条約」においては、合理的配慮は下記のように記されています。
第二条 定義
「合理的配慮」とは、障がい者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。
また「第二十四条 教育」においても、教育についての障がい者の権利を認め、機会の均等を基礎として実現するため、障がい者を包容するあらゆる段階の教育制度及び生涯学習を確保するよう定めており、その権利の実現のため「個人に必要とされる合理的配慮が提供されること。」が明文化されています。
合理的配慮の具体例
発達障がいを持つ人に対して、具体的にどのような合理的配慮を行えばいいのでしょうか?
合理的配慮は、配慮を必要とする方や周りの環境によっても異なります。また、配慮を提供する側にも今いる人材や施設・設備は異なり、負担となりすぎないようにすることも重要です。
学校生活と社会生活に分けて、それぞれ見ていきましょう。
学校生活における合理的配慮
学校では、児童や学生が等しく教育を受ける権利を持っています。席替えの時に、視力の悪い子を黒板が見えやすい前の席にするなどと同様に、発達障がいを持つ児童や学生についても配慮が必要です。
具体例をいくつかあげてみます。
- 読み書きが困難な方にはタブレットを利用したり、聞く能力に困難がある方には音声読み上げソフトなどを導入する
- 授業中じっとしていられないお子様には、集中できるよう隅の席にしたりパーテーションを使う。テストは別室で受けられるようにする。など
- 二つのことを同時に行うのが難しいお子様には、加配職員がつき、隣で一つずつ次にやることを明示する
こういった配慮を行うことにより、発達障がいを持つお子様も平等に教育を受けることができるようになります。
また、合理的配慮を求める際には保護者様から学校へ相談をすることが非常に大切になります。発達障がいは個人の特性に応じて症状が大きく変わり、どういった配慮が必要なのかを判断するためにもお子様の症状をきちんと学校に伝える必要があります。
社会生活における合理的配慮
次に、発達障がいを持つ人が、定型発達の人と同様に平等で自由な生活を営むために必要な合理的配慮の事例を見ていきましょう。ここでも具体例をいくつかあげてみます。
- 公的施設において、感覚過敏の人のために、オープンスペースではなく個室でお話ができるスペースを設ける。
- 資格取得などの講義について、読み書きに難があるためタブレットなどを導入する
- 講演などを見たいが、一つの場所で長時間座って聞くのが困難な人のために、オンラインなどで視聴する環境を整える
学校生活と同様、合理的配慮を求める際には、お願いする側に自身の症状などを相談することがとても大切です。
障害者差別解消法とは
障害者差別解消法は、2013年6月に障がいを理由とする差別の解消推進を目的として制定された法令です。
障がいのある人には、障がいのない人と比べると社会生活を営む上でいくつものバリアが存在します。このバリアを取り除き、障がいのあるなしにかかわらず、お互いを認め合い共に生きる社会を実現することを目指しています。
そのため行政機関や事業者に対して、障がいのある人への障がいを理由とする「不当な差別的取扱い」を禁止し、障がいのある人から申し出があった場合は「合理的配慮」を行うものとするのが「障害者差別解消法」です。
対象となる障がい者
障害者差別解消法の対象となる障がい者は、障がい者手帳を持っている人だけに限定されていません。
身体障がいのある人はもちろん、知的障がいのある人、精神障がいのある人(発達障がいや高次脳機能障がいのある人も含む)、そのほか様々な障がいを持つ人で、障がいや社会の中にあるバリアによって、継続的に日常生活・社会生活に相当な制限を受けている全ての人が対象となっています。
対象となる事業者
対象となる「事業者」とは、企業や団体、店舗のことです。また事業者は、営利目的・非営利目的、個人・法人を問わず、同じサービス等を継続する意思をもって行う人たちを指します。つまり個人事業主やボランティア活動のグループも対象には含まれます。
「不当な差別的取扱い」について
「不当な差別的取扱い」とは、正当な理由がないにもかかわらず、障がいを理由にサービス等の提供を拒否する、または場所や時間帯を制限するなど、障がいのない人とは異なる取り扱いをして、障がいのある人を不利に扱うことを指します。
具体例をいくつかあげましょう。
- 障がいのある人の来店時に、障がいを理由に入店を断る。来店の際には保護者や介助者の同伴が必須など制限を設けるなどの行為
- 障がいのある人に対して接客態度をあからさまに変えたり、サービスの質を下げる行為
- 正当な理由がないのに、サービスの提供内容や場所の変更などを行う行為
このような、障がいのある人を不利に扱う行為を、障害者差別解消法では禁止しています。
「合理的配慮の提供」について
障害者差別解消法では、障がいのある方から何らかの配慮を求められた場合には、事業所などの負担になり過ぎない範囲で必要な合理的配慮を行うことが求められています。
また、2021年には障害者差別解消法が改正され、事業者による障がいのある人への「合理的配慮の提供」は法的義務となりました。この改正法は2024年4月1日より施行されています。
元々は国の行政機関や地方公共団体等だけが義務だったのですが、法改正により民間事業者も義務となったため、合理的配慮の改善が見られなかった場合には、国の行政機関から報告を求められたり、指導や勧告を受ける可能性があります。
ただし合理的配慮は「過度な負担」を事業者に強いない範囲に止まっており、本来の業務に付随しない内容に関しては合理的配慮の提供義務に違反しないともされています。
※「過度な負担」とは
下記の要素を加味しながら、総合的に見て個別に判断されます。
・事業活動への影響の程度
・実現困難度
・費用・負担の程度
・企業の規模
・企業の財務状況、 ⑥公的支援の有無
合理的配慮の法的義務に当たっては、内閣府より、合理的配慮の事例集も出ていますので、事業所の方はご参考ください。
合理的配慮には対話を重ねることが大切
合理的配慮の提供のためには「建設的会話」が重要です。
発達障がいは特性により症状が異なるため一律の対応は難しく、配慮を求める側と合理的配慮を提供する側で会話を重ねて、手段を見つけていくことが不可欠です。
会話するに当たって、
- 前例がないので対応できない
- 障がい者を特別扱いはできない
- 安全上不安があるので、対応できない
などの対応は「不当な差別的取扱い」に当たるケースがあります。
事業者も障がいを持つ人も過度な負担にならない形で合理的配慮を実現していくためには、建設的な会話を重ねていくことが大切です。
合理的配慮に関する相談先
「不当な差別的取扱い」や「合理的配慮の提供」について相談したい時には、令和5年(2023年)10月16日から運用が始まった障害者差別に関する国の相談窓口「つなぐ窓口」への相談がよいでしょう。
相談を受けると地方自治体や各府省庁の適切な相談窓口への接続はもちろん、障害者差別解消法についての質問にも対応してくれます。
「つなぐ窓口」は、令和7年3月下旬まで、試行的に設置されています。
障害者差別に関する相談窓口「つなぐ窓口」
電話相談:0120-262-701 毎日10時から17時まで(祝日・年末年始を除く)
メール相談:info@mail.sabekai-tsunagu.go.jp
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