発達障がいとは?
そもそも発達障がいとは何なのでしょうか?
発達障がいとは病気ではなく「先天的な脳機能の特性」を指します。原因はまだはっきりと解明されていないのですが、発達障がいの人は生まれつき脳の特定の箇所の働きに偏りがあると考えられています。
以前は、発達障がいは愛情不足や養育環境などにより起こると思われていたこともありましたが、最近では生まれつき脳の機能に違いがあるのだということが分かってきました。つまり、発達障がいは親が原因で起こるものではありません。
脳には視覚や運動能力、記憶や感情を司る部位があり、それらが相互に繋がりネットワークを形成しています。発達障がいの人は、脳の各部位やネットワークが生まれつきうまく機能していない状態であり、そのため定型発達の人と比べて行動に差が出てしまうのです。
では、具体的な発達障がいの種類について次からみていきましょう。
発達障がいの種類
先で解説した通り、発達障がいは生まれつきの脳機能の特性であり、偏りのある脳機能によって障がいの種類も大きく異なります。ここでは代表的な発達障がいの種類を順番に解説していきます。
ASD(自閉症スペクトラム症)
ASD(自閉症スペクトラム症)は「コミュニケーション・対人関係の困難」や「同一性の保持(環境の変化への極度な嫌悪)」「感覚過敏」が主な特性として知られています。
以前は「自閉症」や「アスペルガー障がい」と呼ばれていたものが、昨今ではその症状には軽いものから重いものまで連続性があり区別されるものではないと「自閉症スペクトラム症」とひとくくりで呼ばれるようになりました。「スペクトラム」はグラデーションの意味で、これらの症状の濃淡と連続性を表しています。
ASDは「知的障がいがある」「知的障がいがない」によって大きく区別され、知的障がいがない比較的症状の軽い人は幼児期に発見されないまま大人になり、社会生活の中で生きづらさを感じ発見に至るケースも多いと言われています。
ADHD(注意欠如多動症)
ADHD(注意欠如多動症)は「不注意」「多動性」「衝動性」が主な特性として知られている発達障がいの一種です。
その時の思いつきで行動するため突発的な行動が多く、また注意力が散漫しているため段取りをつけて何かをこなすことが難しいのが特徴です。子どもであれば「授業中に席に座っていられない」「忘れ物や無くしものが多い」などの特徴として出ます。
成長とともに緩和されていくとも言われていますが、先天的な機能障がいのため完治は難しく、大人にとっても一定程度は残ることがあります。
SLD(限局性学習症)
SLD(限局性学習症)とは、全般的な知能は正常な範囲にあり、視力や聴力にも異常が認められないにもかかわらず、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」などの能力のうち、1つないしは複数に困難を抱える特性を持ちます。単に「LD(学習障がい)」と呼ぶ場合もあります。
SLDの種類は主に3つに分類されます。まず文字や文章を読むことに困難がある「読字障がい(ディスレクシア)」はSLDでは一番多い障がいです。次に読むことはできるのに書くことが難しい障がい「書字表出障がい(ディスグラフィア)」、最後が計算や推論を苦手とする「算数障がい(ディスカリキュラ)」です。
その他の発達障がい
上でご紹介した3つが発達障がいの主な種類ですが、その他にも発達障がいはいくつか種類があります。
チック症
チック症とは、思わず起こってしまう素早い体の動きや発声のことを指します。「まばたき」や「顔をしかめる」「首振り」「うなずき」などの運動チックと「ンンなどの発声」「鼻すすり」「咳払い」などの音声チックの2種類に分けられます。
幼児期での発症が多く、症状は成長に伴い消失・快方に向かうことが多いようです。また男児に多い傾向があります。
症状が1年以内に消失するものを「一過性チック」、1年以上続くものを「慢性チック」と呼びます。
また音声チック、運動チックの双方が1年以上続くものを「トゥレット症候群」と呼びます。
吃音症
吃音症は話はじめの言葉に詰まったり、言葉がすらすら出てこない発達障がいの1つです。どもりとも呼ばれますが、現在では差別的な意味合いから使われなくなりました。
吃音の9割は幼児期(2〜5歳)に発症する「発達性吃音」と呼ばれる種類で、成長とともに自然治癒することが多いと言われています。また10代後半に発症する「獲得性吃音」もあります。
ASDの特徴
ここからは主な発達障がいについて、具体的な特徴を解説します。まずは「コミュニケーション・対人関係の困難」や「同一性の保持(環境の変化への極度な嫌悪)」「感覚過敏」を特性に持つ「ASD(自閉症スペクトラム症)」の特徴です。
ASDはこれら全ての特徴を持つ訳ではなく、人によってどういった特性を持つかは異なります。
他者とのコミュニケーションが苦手
ASDの人は、相手の言葉や意図を想像する力が弱く、人と円滑にコミュニケーションを取ることが苦手です。
場の空気を読みとったり、比喩表現や暗黙のルール、皮肉などを理解することが難しいため、言われたことをそのまま鵜呑みにしてしまい、察する文化の強い日本では敬遠されてしまいがちです。
また物事を論理的に考える傾向が強く、自分ルールへのこだわりが強いことから、納得できないことは突っぱねがちです。たとえば、上司に手伝いを頼まれた時に、定型の人であれば「上司に頼まれたし」と忖度できる場面でも「自分の仕事ではないから関係がない」と本気で思って行動してしまう傾向にあります。
結果的に大人の場合は『空気の読めない人』『扱いづらい人』として扱われてしまい、子どもの場合は周りに馴染めずクラスで孤立しがちです。
言葉が遅れている
知的障がいを伴うASDの場合、発語が遅い(言葉が遅れている)のも特徴の1つです。
一般的に子どもは1〜2歳で意味のある言葉を話し始め、3歳では2語文が話せるようになりますが、これらが出てこない場合は発達障がいが疑われます。それぞれ1歳半検診、3歳児健診でチェックされる項目でもあります。
また単に発語の遅さであれば聴覚機能など別の理由の場合もあるので、きちんと診断してもらうことが大切です。
感覚過敏もしくは無関心
聴覚、視覚、嗅覚、触覚、味覚といった感覚の内1つ以上に、生活に支障をきたすレベルで過敏になる感覚があるのも発達障がいの特性の1つです。
たとえば大勢人がいる人混みが極端に苦手で社会生活に支障が出たり、子どもであれば不安で突然大きな声を出して泣き叫ぶなどの行動に現れます。
また、逆に感覚に著しい鈍感さがある場合もあり、「感覚鈍麻」といいます。たとえば、触覚が鈍い場合は骨折をしても痛みに気づかないなどの症状が出ます。
強いこだわりを持っている
ASDの特徴の1つに「同一性の保持(環境の変化への極度な嫌悪)」というものがあります。特定の物事に対してのこだわりが強く、同じであるということへのこだわりが非常に強いため、急な変化に弱く柔軟に対応することが難しいといった特徴が表れます。
たとえば「同じ時間に同じことをしないと耐えられない」「予定が変わるとパニックになる」「自分が決めたルールにこだわる」などです。子どもであれば「いつも同じ服でないと強い癇癪を起こす」「ご飯を食べる順番が必ず決まっている」などはよく耳にする例です。
興味のあることへの集中力が高く知識が豊富
反面、ASDの人は興味のあることへの集中力が非常に高いという特徴もあります。
同じことを繰り返すことが苦にならず、また興味を持った事柄へのこだわりも強いため、知らない間に膨大な知識を溜め込みがちです。これらの特性は場所を生かせば、定型発達の人にはない強みにもなり得ます。
ADHDの特徴
続いて「不注意」「多動性」「衝動性」が主な特性として知られているADHD(注意欠如多動症)の特徴について紹介します。
ASDと同様、ADHDの人がこれら全ての特徴を持つ訳ではなく、働きが偏っている機能に応じて特徴は変わります。
忘れ物や失くし物が多い
ADHDの人は注意したり、集中したりすることが苦手な特性を持っています。意識がすぐに別のことに移るので、明日までに必要なものを覚えていられなかったり、物を落としても気づかなかったりします。
児童期には、鉛筆や消しゴムがすぐになくなったり、ノートや明日の宿題を学校に忘れたりしがちです。
約束を守れない
ADHDの特性を持つ人には、「約束を守れない」という特徴がよく見られます。
ADHDの人は注意力が散漫で、また優先順位をつけることが苦手です。大事な約束があっても、別件の連絡が入ったりするとそちらに注意が向いてしまいがちで、元々の約束の方がどんなに大事でも忘れてしまうのです
また時間の見積もりをするのが苦手なので、予定に遅刻することが多いのも非常に多い特徴です。
同じ間違いを繰り返す
ADHDの人の多くは「注意欠如」という特性を持っているため、単純ミスが非常に多い傾向にあります。注意力が散漫で興味の対象がすぐに別のことへ移ってしまうため、目の前のことから意識が逸れやすい傾向にあります。
そのため同じようなミスを何回も繰り返してしまい、上司から「ミスが多すぎる」「何度も同じ間違いをする」と叱責されがちです。
人の話を遮ってしまう
自分が興味のない話には集中できず、つい相手の話を遮って自分の話を始めたりしがちなのもADHDの特徴の一つです。注意欠如と多動性という特性から、集中して人の話を聞くことが苦手なのです。
そのため自分が興味を持てない話題の時は、つい目の前の話とは全く違うことに意識が向き、頭の中では全く別のことを考える『マインド・ワンダリング』を始めてしまったりします。目の前の話を聞かないまま、急に頭の中で考えていることを話し始めたりするため、人の話を全く聞かないと捉えられてしまうのです。
落ち着きがない
「多動性」「衝動性」の特性を持つADHDの人は、落ち着くことが苦手です。興味のあることがあればそちらに注意が向き、また同じところでじっとしていることが苦手なので、全体的に落ち着きがない人だと思われがちです。
子どもの頃は、幼稚園の先生の話を全く聞かずに別のことをしたり、小学校では教室で授業を聞いてられずに歩き回ったりといった行動に出ます。大人になってからはせっかちになりがちで、会議の時間が伸びるとイライラしたり、メールの返信が遅いとイライラしたりと、常にイライラしてしまい、とっつきにくい人に見られる傾向があります。
SLDの特徴
「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」などの能力のうち、1つないしは複数に困難を抱える特性を持つSLD(限局性学習症)は、どの機能に障がいがあるのか、また特性傾向の強弱によって特徴が様々です。
いくつか代表的なものをご紹介します。
読み書きや計算が困難
SLDの人はそれぞれ「読字障がい(ディスレクシア)」「書字表出障がい(ディスグラフィア)」「算数障がい(ディスカリキュラ)」の症状で、読み書きや計算が非常に困難だという特徴が出ます。
他の知能は正常な範囲にあるので、穴が抜けたようにその機能の部分だけが苦手なのです。たとえば「似ている次の区別が難しい」「音読スピードが極端に遅い」「繰り上げや繰り下げの計算ができない」「暗算ができない」などが挙げられます。
マス目から文字がはみ出してしまう
書字表出障がいの人は、文字の形がうまく認識できないと言われています。そのため、マス目の中に文字を書くときに、完成した文字の形をうまくイメージできないまま書くため、マス目の中で文字を完結させることができないのです。
学生の頃は単に「字が汚い」「成績が悪い」で見落とされ、大人になってから「メモを取るのが遅い」「記録が取れていない」などのトラブルが表面化して初めて診断を受ける場合もあります。
会議を聞きながらメモができない
また、社会人になった時に「会議を聞きながらメモができない」などの特徴があります。
「聞く」機能に障がいがある場合、聞いたことを理解できず、メモを取る能力には問題がないのに聞いたことが理解できないからメモできない、といったことが起こります。もちろん聞く能力は問題ないのに、字を書くことができなくてメモが取れない、といったことも起こります。
気になる行動に気づいたら?
自分やまた周囲の家族などの気になる行動に気付いたら、早めに診断を受けることが大切です。
発達障がいは病気ではなく特性であり、完治させることは難しいです。しかし周囲の人がその人の発達障がいの特性を理解し、早いうちから適切な療育につなぐことで、社会に適応する力を身につけていくことができます。
「発達障がいかもしれない」と思った時の相談窓口や情報収集先をいくつかご紹介します。
発達障害者支援センター
発達障害者支援センターとは、発達障がい児(者)への支援を総合的に行うことを目的とした専門的機関です。都道府県・指定都市自ら、または、都道府県知事等が指定した社会福祉法人、特定非営利活動法人等が運営を行っています。
発達障がいを持つ方や家族が豊かな生活を送れるよう、保健、医療、福祉、教育、労働などの関係機関と連携し、発達障がいについてのさまざまな相談に応じ、指導と助言を行っています。
全国に展開していますが、センターの事業内容には地域性があり、詳しくは一度お住まいの地域の発達障害時支援センターにお問い合わせください。
地域の医療機関
地域の医療機関に相談しても発達障がいの診断や相談を行ってくれます。
発達障がいの検査や診断は「精神科」や「心療内科」で行っています。発達障がいを扱っているかどうかは、一度お近くの医療機関にお問い合わせください。また医療機関のリストや相談窓口を公開している自治体もあります。
発達障害教育推進センター
発達障害教育推進センターでは、発達障がいのある子どもの教育の推進・充実に向けて、発達障がいにかかわる教員や保護者など関係者への支援やWebサイト等による情報提供や調査研究活動を行っています。
発達障がいについての情報を幅広く提供しているため、情報収集に適しています。また、発達障がいについてのセミナーも行っています。
発達障害ナビポータル
発達障害ナビポータルは国が提供している発達障がいに特化したポータルサイトです。国が母体であるため、発達障がいについて信頼性の高い情報を集められます。
発達障がいの治療方法や支援
では具体的に発達障がいだとわかった時に治療方法はあるのでしょうか?
発達障がいは「先天的な脳機能の特性」ですが、社会に適応するための治療方法は「療育(発達支援)」と「薬物療法」の2つに分かれます。順番に説明していきましょう。
発達支援(療育)
発達支援(療育)とは、発達障がいを持つ方や発達障がいの可能性のある方が社会的に自立して生活できるよう、個別の状態や特性に応じて支援を行うことです。主に発達障がいを持つ子どもが対象となります。
発達障がいは一人ひとり程度や障がい特性が違います。
一人ひとりの障がい特性に合わせた関わりを持つことによって、少しずつできることを増やし、社会に適応できるよう支援していきます。
薬物療法
症状によっては、投薬による治療を行うことも少なくはありません。
たとえばADHDであれば、多動や不注意といった症状を緩和するための効果がある薬物を投与したり、脳機能の一部の向上を促す効果を持った薬物を使うこともあります。副作用もありますので、医師と相談しながら、適切な容量・用法を守って服用することが大切です。
公的サポート
発達障がいのある方には、様々な公的支援があります。
たとえば「障がい手帳」を取得することでさまざまな福祉サービスを受けることができますし、地域によっては公的に提供されている療育を受けられることもあります。
保育施設や小学校でも、発達障がいの子たちへの合理的配慮の一環として、支援を受けられるので一度相談してみるのが良いでしょう。
発達障がいの人に接する時の配慮
最後に周囲の方が行える発達障がいの人に接する際の配慮についてご紹介します。
前提として発達障がいの強弱や特性は人に依存します。いずれの症状の場合も、まずは本人の特性について本人をよく知る人からサポートのコツを聞くことが大切です。
ASD(自閉症スペクトラム症)
ASDの人に伝えたいことがある時は遠回しな言い方をせずに、簡潔にハッキリと伝えるとよいでしょう。また先の見通しを立てることが苦手なので、手順を丁寧に1つずつ示すことが大切です。
また発達障がいの人は聴覚情報よりも視覚情報が強い傾向にあるため、図やイラストを使うのも1つの手段です。
感覚過敏がある場合は、耳栓の使用やホワイトボードの使用、パーテーションでスペースを区切るなど、相手の程度によった配慮ができるといいですね。
ADHD(注意欠如多動症)
ADHDの人は注意欠如や多動症の傾向があり、ものを忘れがちです。伝える時は簡潔にハッキリと、大切な予定がある時はスケジューラーに登録してもらうことをお勧めします。
またスケジューラーに入っていたとしても、メールがくると忘れてしまったりするため、特に大事な約束であるということまでしっかりと記載してもらうと良いでしょう。
他にも座席の位置を気が散りにくい場所に配置したり、わかりやすい仕事のルールを決めるなどの配慮が必要です。
SLD(限局性学習症)
SLDの特性を持つ人には、得意な分野を積極的に使える遊びや仕事を提供するよう配慮しましょう。
今は仕事でも教育現場でもタブレット端末が利用できることが多く、文字を大きくしたり、自分で書かなくても文字を入力できたりします。SLDの人が苦手な部分をICTツールに担ってもらうのも1つの手段です。
その他の発達障がい
他にもチック症や吃音障がいといった発達障がいは、子どもの頃に見られる障がいであり、表面的に分かりやすいものです。定型発達の友達がその子を笑ったり、冷やかしたりしないよう配慮が必要です。
本人がリラックスして過ごせるよう、周りへの理解を促すことが大切でしょう。