発達障がいの主な種類と特徴
発達障がいは生まれつきの脳の特性によって、社会性や認知、言語を扱う能力などに偏りがあることを指します。昔は親の愛情不足や養育環境などが原因ではないかと疑われていましたが、近年では生まれつき脳の機能に違いがあることが要因だとわかってきています。
では、発達障がいの主な種類と特徴について紹介します。
注意欠如・多動症(ADHD)
注意欠如・多動症(以下ADHD)は、主に「不注意」「多動性」「衝動性」の三つの症状のいずれかもしくは二つ以上が表れる発達障がいです。
ADHDの特性を持つ子ども達の特徴として、以下にいくつか例をあげます。
- 物をよくなくす
- 忘れ物が多い
- 集中力が続かない
- じっとしていられず周りをすぐにウロウロ
- 順番を待てない
- 我慢ができない
- 思い通りにならないとすぐに癇癪を起こす
- お風呂や歯磨きといった毎日決まったことをするのが苦手 など
「衝動性」や「多動性」が強く出ると、我慢ができずにすぐに友達に手をあげたりする「いじめっ子」タイプになりがちです。逆に「不注意」の特性が強く出るとぼんやりしていて、集中力が続かず何事も諦めがちな昔の「いじめられっ子」タイプになったりします。このように持っている特性によって表出する性格も異なるため、全く違う対応が必要になります。
またADHDは治療するとよくなる子が多く、周りが関わり方をその子に合わせたものに変えていくことで、少しずつ自己コントロールの力がついてくるとも言われています。
自閉スペクトラム症(ASD)
自閉スペクトラム症(以下ASD)は、「コミュニケーションの困難」や「同一性の保持(環境の変化への極度な嫌悪)」「感覚過敏」が主な特性として知られている発達障がいです。スペクトラムは「グラデーション」を意味しており、かつては「自閉症」や「アスペルガー障がい」「高機能自閉症」と区別されていたものが、これらは別々の障害ではなくグラデーションの濃淡のように連続しているものだとされ、ひとくくりで呼ばれるようになりました。
ASDの特性を持つ子ども達の特徴として、以下にいくつか例をあげます。
- ひとり遊びを好む
- 視線が合わない
- 名前を呼んでも反応しない
- 同年代の友達と遊ぶのが苦手
- 発語が遅い、同年代と比べて言葉が少ない
- こだわり(自分ルール)が強い
- いつも同じ行動をしたがる(同じ服にこだわる、順番にこだわる等)
- 親や先生の話を全然聞いていない
- 人に触られるのを嫌がる
- お風呂に入るのを嫌がる など
ASDは「知的障がいのあるなし」によって大きく区別され、知的障がいがない子は症状が見落とされることもあります。知的障がいがなくともASDの特性から、人とのコミュニケーションや環境適応がうまくいかずうつ病などの二次障がいを引き起こすケースもあるため、早い段階で発見して療育などに接続する事が大切だといえます。
学習障害/限局性学習症(LD/SLD)
学習障害/限局性学習症(以下SLD)は、知的な遅れはなく、視力や聴力にも異常が認められないにもかかわらず、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」などの特定の学習能力に困難を抱える発達障がいの一つです。
SLDの特性を持つ子ども達の特徴として、以下にいくつか例をあげます。
- 「ぬ」や「め」など似た字をよく間違える
- 絵本の行を飛ばして読んでしまう
- 文字を行やマスの中におさめるのが難しい
- 数を数えられない
- 時計がわからない など
SLDは1歳児検診や3歳児検診といった乳幼児検診で発見することは難しく、小学校入学後に国語や算数などの授業が始まってから発見されることが多いです。
本人が必死で勉強しても治癒できるものではないため、「勉強にやる気がない」「学力が低い」などと決めつけず、早期に発見に繋げることが重要です。
その他の発達障がい
他にも発達障がいには「チック症」や「吃音症」など幼児期に多く発症するものがあります。
チック症は刺激に対して、「まばたき」や「顔をしかめる」「首振り」「うなずき」や「ンンなどの発声」「鼻すすり」「咳払い」などが思わず起こってしまうことを指します。比較的男児に多く、成長に伴い消失・快方に向かうことが多いようです。
また、吃音症は話はじめの言葉に詰まったり、言葉がすらすら出てこない症状です。吃音の9割は幼児期(2〜5歳)に発症し、チック症と同様、成長とともに自然治癒することが多いと言われています。
発達障がいを持つ子に保育園がすべき対応
発達障がいは早期発見・早期支援がとても重要です。保育士や幼稚園教諭など、子どもたちと深く関わる大人が正しい知識をもち適切な対応を行うことは、子ども達が社会へ適応していくために大きな助けになるでしょう。
では実際に発達障がいを持つ子が入園した時に、保育園や幼稚園ができることはどんなことでしょうか。
保育士全体への共有
まず大切なのは、子どもの症状や特性を正しく保育士全体で共有することです。
担任・副担任・園長などその子に関わる主要な人物が知っていれば問題ないと考えず、園全体でその子の特性や対応方法を共有することが大切です。
園生活ではどのタイミングでどの保育士が関わるかは分かりません。情報が共有できていなければ、その子が問題行動を起こした時に定型発達の子達と同様の対応をとってしまい、それが悪循環につながることも考えられます。
逆に園全体で情報が共有されており、対応も統一していれば、関わる保育者も自信を持って関われますし、人によって対応がブレないので保護者の安心感も増すでしょう。
家庭での様子を保護者に聞く
発達障がいを持つ子どもたちの特性は様々です。ADHDやASDといった診断が下りたからといって、対応の完全マニュアルがある訳ではありません。対応方法は子どもの特性に合わせる必要があります。子どもにとっては家庭も園も生活の地続きなので、その2つで器用に対応の違いを受け入れることは難しいです。同様に対応するためには、園だけなく家庭の協力も不可欠なのです。
園と家庭で対応が変わって子どもに不安を抱かせることがないよう、家庭での様子はこまめに伺い、家庭と保育園の対応を統一するように努めましょう。保護者も不安がいっぱいですので、園の様子を伝える時は前向きな言葉を選んで伝えることが大切です。
地域の施設への接続・相談
園では対応できないことが多い場合、地域の療育センターなどへ相談するのも手段の一つです。
療育センターには、保育園や幼稚園と連携する仕組みもあり、スタッフの派遣を相談することもできます。また福祉機関や教育機関の職員が保育所を訪問し、保育士が相談できる「巡回相談」のシステムなどもあります。
二次障がいの防止
発達障がいを持つ子どもを適切にサポートをすることで、二次障がいを防ぐのも保育園や幼稚園の大切な役割です。二次障がいとは発達障がいを起因として抑うつや不安障がいなどの精神疾患を発症することです。
発達障がいを持つ子どもたちは多かれ少なかれ集団生活の中でストレスを抱えています。前提としてお友達を困らせたい訳でも、先生を困らせたい訳でもありません。そんな中で「扱いづらい子」「やりづらい子」といったレッテルを貼られてしまったり、合わない環境の中で過ごすうちに強いストレスが生じたり、集団生活の中で孤立してしまったり、大きな不安を覚えたりしてしまいます。
早くに子どもの特性を発見し、その子に合った支援を行うことで、こういった二次障がいを防ぐことができます。発達障がいの中には集団生活の中でしか分からない特性もあり、保育士や幼稚園教諭が早期発見・早期支援にとても大切な役割を負っているといえます。
地域や保護者と連携をとる
保護者と子どもの特性についてしっかりと情報共有ができている場合、地域の療育センターや病院などの機関とも連携しながら子どもを見守っていくのが良いでしょう。
家庭・保育園・地域といった子どもが関わる社会全体で支援ができれば、子どもの自立をより促進できるでしょう。
発達障がいを持つ子に保育士ができるサポート
ここまでは園ができる支援やサポートについて紹介しましたが、ここでは保育士が個人でできるサポートについて紹介します。
発達障がいについて理解する
まず発達障がいについて正しく理解することが大切です。発達障がいの特性は個人によって違い、対応も一人一人異なるとは書きましたが、幾つかの種類や対応パターンは存在します。
細かな対応は子どもと関わりながら一人一人の個性に合わせて調整していくことが大切ですが、大枠として発達障がいの症例を理解することは、子どもたちをサポートする上で大きな助けとなるのは間違いありません。
発達障がい支援には民間資格もたくさんあり、比較的短期間で取得できるものもあるので、資格の取得を目指してみるのも良いかもしれません。定型発達のこと比べると「わがまま」「頑固」「扱いにくい」と思えてしまう行動も、知識を得ると「なぜそのような行動をするのか」理解が深まり、関わりやすくなるでしょう。
子どもの発達障がいの特性に適したサポートを行う
発達障がいについて大枠を理解したら、子どもの個性と特性を把握することが大切です。保育士や幼稚園教諭は、子どもの社会生活の中でも長い時間を一緒に過ごします。ともすれば親には見えない子どもたちの一面を見られる立場であり、園の活動を通して子どもの得意分野を発見することもできます。
子どもに合わせたサポートを行うことで、不足部分を補うだけでなく、得意分野を伸ばし可能性を引き出すこともできます。また、保育士や幼稚園教諭は子どもにとって保護者の次に身近な大人であり、保育士や幼稚園教諭が自分に合わせたサポートを行ってくれることで「社会への不安」や「自分はダメかもしれない」といった思い込みを緩和し、大人や社会への信頼感にもつなげることもできるでしょう。
保護者とこまめにやりとりする
また保護者とこまめにやり取りを行うことも大切です。保護者から見て子どもが苦手としていることや家庭での過ごし方、対応方法をきいて園でも指導や保育に活かしてみると良いのではないでしょうか。また担任であれば、園で一番子どもと関わる機会が多く、園生活だからこそ気づく点もあるので、こまめに子どもの様子を保護者に報告することで、保護者も安心して子どもを預けられるでしょう。
保護者も自分の子が発達障がいであることに不安を抱えていると思います。具体的で丁寧な連絡を心がけ、少しでも不安を解消できるように努めることが、回り回って子どもたちの心の安定にも繋がることになります。
発達障がいの疑いがあることを保護者に伝える時は
最後に、発達障がいの子どもたちの数は近年ぐんと増えてきています。教育現場や公共での理解は昔と比べると進んでいますが、まだまだ一般的に浸透しているとは言えません。知的障がいが伴わない場合の発達障がいは発見が難しく、保護者にとっても普段の生活では「少し手のかかる子」といった認識である場合もあります。
ただ、園の様子から子どもに発達障がいの可能性があると複数の保育士が考えた場合、保護者にも相談する必要が出てきます。発達障がいの診断や支援に繋げるためには、保護者が納得する必要があるからです。
可能性が出てきた場合は、できる限りショックを与えることは避けるような伝え方を心がけましょう。病名などは憶測で口にすることは避け、実際にあった問題行動を共有するようにしましょう。同様の行動があって家庭でも困っている場合は、保護者の苦労に共感し、不安な気持ちに寄り添いながら、子どもへの関わり方を一緒に考えましょう。
保護者が前向きな気持ちで専門機関への相談を行えるようになるのがベストです。