大人の発達障がいとは
発達障がいとは生まれつき脳の特定の箇所の働きに偏りがあることから起こる「先天的な脳機能の特性」と考えられています。生まれつきの脳の特性なので、親の育て方や養育環境で発症するものではありません。以前は、知的障がいを伴い幼少期に診断されるものだと考えられていましたが、今は知的障がいを伴わない場合も多いといわれています。
中でも大人の発達障がいと呼ばれるものは、概ね18歳以上の発達障がいを指します。
大人になってから顕在化することも
知的障がいを伴う発達障がいは子どもの頃に発見されることがほとんどですが、知的障がいを伴わない場合子どもの頃に発見されず、大人になってから発覚する場合もあります。これが大人の発達障がいです。
軽度の発達障がいの場合、子どもの頃には個性で片付いてしまうこともあります。「少し変わった子」くらいの認識で周りの環境にも適応できてしまうと、日常生活に支障がないまま発見に至らないこともあります。それが大人になって仕事など社会生活で高度なコミュニケーションを要求されるようになると、「生きづらさ」や「人との関わりの難しさ」などの形で表面化するのです。
仕事で簡単なミスを何度も繰り返したり、うまく人とコミュニケーションが取れなかったり。決して平気なわけではなく、本人も直したいのにどうしていいか分からない。結果として失職や転職を繰り返したり、うつ病や適応障がいなどの二次障がいを引き起こしてしまうケースもあります。
大人の発達障がいの特徴
大人の発達障がいも基本的には子どもの発達障がいと特徴は変わりありません。ただ子どもと違い、大人になると行動には責任が付きまとうので、顕在化しやすくなります。
いくつか代表的な特徴の例を紹介しましょう。
同じミスを繰り返す
発達障がいの人は、不注意や目の前のことへの過集中により、同じミスを繰り返してしまうことがあります。たとえば仕事では書類の誤字脱字、計算間違いなどの単純ミスが多かったり、家庭では片付けが出来なかったり、買い物の買い忘れが多かったりしがちです。
やりかけの仕事を途中で放置してしまうことも多いので、周囲には「いい加減」「やる気がない」などと思われてしまうこともあります。
ミスが多いことを本人も自覚していて何とかしたいと思っているのですが、どうしても注意が次から次へと別のことへ移ってしまいひとつのことに集中できないのです。また目の前のことから意識が離れて自分の思索に没頭してしまうことも多く、ミスの原因になっています。
会社によく遅刻してしまう
時間の見積もりがうまく出来ないのも発達障がいの特徴の一つです。遅刻は発達障がいの人に非常に多い特徴で、会社の出社時間だけでなく、大事なアポイントであっても遅刻してしまうことがあります。
もちろん本人は遅刻してもいいと思っているわけではありません。遅刻はだめだとわかっているし、遅刻すると落ち込むのです。
発達障がいの人の遅刻には様々な要因が絡み合っています。たとえば、時間の見積もりが苦手な傾向にあることです。朝の準備であれば「朝ごはん」や「身支度」などがありますが、一つひとつの時間の見積もりが甘く、本来1時間かかるところを30分で出来ると捉えて結果的に30分遅刻したりしてしまいます。
また優先順位をつけることが苦手で、何から準備していいのかわからずに混乱してしまったり、不注意による電車の乗り間違えなども遅刻の原因になるでしょう。
他にも時間は分かっているけれども、「行きたくない」という自分の気持ちを優先してしまい、結果的に遅刻するといったケースもあります。
周囲の人とうまくコミュニケーションがとれない
周囲の人とうまくコミュニケーションをとれない、というのも発達障がいを持つ人の大きな悩みであり特徴です。
コミュニケーションが円滑にいかない原因は本人の特性により様々ですが、たとえば「こだわりの強さ」などがあります。自分の中に正解を持っているので、状況や相手に合わせて話すことが非常に苦手です。たとえば「ご家族はお元気ですか?」と聞かれた時に、「あなたには関係ない」と返してしまい空気を悪くしてしまうことがあります。本人にはもちろん悪気はありません。本当に「関係ない」と思っているので、正直に伝えただけです。
また「人の気持ちを想像するのが苦手」なのもコミュニケーションが苦手な原因です。相手の言葉を額面通り受け取ってしまうので、定型発達の人であれば空気感で「この人は不機嫌だな」と感じられる場面でも、口で「楽しかった」と言われれば、楽しかったのだと納得してしまいます。
他にもせっかちで他人のペースが自分よりゆっくりだとすぐにイライラしてしまい「あまり関わりたくない人」と思われたり、興味がない話をすぐに遮ってしまったりと、他人と円滑にコミュニケーションを取るのが難しい特性が多数あります。
発達障がいの主な種類
発達障がいにはいくつか種類がありますが、ここでは主な3つをご紹介します。
注意欠如・多動症(ADHD)
まずは「不注意」「多動性」「衝動性」が主な特性として知られている注意欠如・多動症(ADHD)です。大人の発達障がいでも見られる特性です。
子どもの頃は「多動性」が目立ち、授業中に椅子に座ってられないなどの行動に現れるケースが多いのですが、大人になると落ち着いてきて「不注意」などの症状に出るようになってきます。
ADHDの特性を持つ人には、ケアレスミスが多い、片付けが苦手、物忘れが多い、約束が守れないなどの特徴が多くみられます。また衝動性も強く、衝動的に強い言葉を使ってしまったり、相手のペースに合わせられずイライラしがちであり「とっつきにくい人」「あまり関わりたくない人」と相手に思わせてしまうこともあります。
ただし、ADHDの特性は瞬発的な行動力にも結びつくので、外回りの営業などであれば意欲的で実行力の高い人といった評価を受けることもあるでしょう。
自閉スペクトラム症(ASD)
「コミュニケーション・対人関係の困難」や「同一性の保持(変化への忌避)」「感覚過敏」が主な特性として知られるのが「自閉スペクトラム症(ASD)」です。こちらも大人の発達障がいには多い症例です。
日本には和を重んじる文化があり、仕事をしていても「暗黙の了解」や「空気を読む」などを美徳とする風潮が根強いですが、ASDの人は他者の気持ちを想像することが苦手です。そのため他者とのコミュニケーションに悩んだり、空気を読めない人だと敬遠されて集団の中で孤立し、他者との関わりにストレスを抱えがちになります。
学習障がい/限局性学習症(LD/SLD)
知能は正常な範囲にあるものの、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」などの能力のうち、1つないしは複数に困難を抱える特性をSLD(限局性学習症)と呼びます。
SLDは発達障がいの種類の一つではありますが、文字が読めない、書けない、計算ができないなどと幼い頃に察知できる症状が出やすいので、大人になってから判明することはさほど多くはないでしょう。
大人の発達障がいかもしれないと思ったら
ここまで読んで、自分の症状に当てはまるかもしれない、または家族や親しい人の症状に当てはまるかもしれないと思った方は、一度診断や相談をしてみるのが良いでしょう。
発達障がいがあることを知らずに無理をして仕事をしていると、心に負担がかかり二次障がいを引き起こしてしまう可能性もありますので、早めの診断がおすすめです。自分が発達障がいの特性を持っているとわかることで、対処の方法なども具体的に考えることができるかもしれません。
以下に対応方法をいくつかご相談します。
セルフチェックや簡易診断を行う
病院に行くことに少し抵抗感を感じる方は、まずは自分でできるセルフチェックや簡易診断を利用するのがオススメです。
ネットで検索すると、自分で行えるセルフチェックや簡易診断のサイトが多数出てきます。大手の製薬会社なども大人の発達障がいに関するセルフチェックなどをサイト上で提供しています。
市区町村の窓口に相談する
各市区町村には発達障がいをはじめとした、障がいに関する相談窓口が置かれています。専門のサポーターがいることが多いので、まずは疑いがあるかもしれない、仕事先や社会の関わりの中で困りごとがいくつかあるということを相談してみましょう。
公共サービスを利用する
市区町村の窓口以外にも、発達障がいに特化した公共サービスはいくつかあります。
たとえば発達障害者支援センターは、発達障がい者への支援を総合的に行うことを目的とした専門的機関です。都道府県・指定都市自ら、または、都道府県知事等が指定した社会福祉法人、特定非営利活動法人等が運営を行っており、相談窓口も設けられています。
民間サービスを利用する
民間の医療機関や発達障がいに特化した相談窓口を設けている民間サービスも多数あります。まずは不安に思っていることを、一度相談してみるとよいでしょう。
周囲の人ができるサポート
発達障がいは病気ではなく特性であり、頑張れば治るものではありません。家族や仕事の人に発達障がいを持つ人がいる場合、周囲の人ができるサポートについてご紹介します。
ありのままの状態を受け入れる
発達障がいはその人の特性によって、症状は千差万別です。まずは相手のことを理解し、ありのままの状態を受け入れることが非常に大切になってきます。
どうしてもイライラしてしまう場合は、一般の人とは感覚が違う、独自の世界観があるのだ、といったように意識をしてみると良いかもしれません。「普通は〜なのに!」と自分の普通を押し付けるのではなく、相手にとっての普通が何かを想像してみましょう。
話を最後まで聞けない方はせっかちなので、結論から話す。言葉を額面通りに受け取ってお世辞が通じない人には、正直に話す。すぐに忘れてしまう人には、忘れない仕組みづくりをする、といった相手のありのままを受け入れて前提とした上で「ではどうするか」と対応方法を考えることが大切です。
威圧的な態度で接しない
発達障がいの症状については本人も自覚していないケースがあったり、周囲との不和に悩んでいても具体的に原因がわからない、何を治せばいいかわからないと苦しんでいる場合もあります。
ミスが多いからといって、威圧的な態度で接しないように気をつけましょう。余計に萎縮してしまい出来ないことを出来ないと言えなくなったり、うつ病などの二次障がいに追い込んでしまう場合もあります。
困っている時は声かけをする
相手が困っているな、と思った時は声をかけにくるのを待つのではなく、事前に先回りして声掛けを行うのも良いサポートです。
サポートを行う際は、曖昧な指示ではなく、具体的な指示を簡潔にわかりやすく伝えることが大切です。発達障がいの人は優先順位づけや複雑な作業が苦手なことが多いです。タスクが複数ある場合は、紙などに順番に、簡潔に書いてあげるとより親切です。
相手の特性が分かっている場合は、相手の特性に合わせたサポートができると良いですね。
発達障がいについて正しく理解する
身近に発達障がいの人がいない場合、なかなか理解が進まないこともあるでしょう。サポートの必要がある、サポートしたいという気持ちがある時はまずは発達障がいについて正しい知識を得ることから始めましょう。
たとえば、企業で発達障がいの人を定型発達の人と同様の職場に配置する場合は、配置先の職場に対して事前に発達障がいの研修を行うなどといった理解を深める施策を実施することも良い方法です。
もちろん発達障がいの特性は人によって大きく異なりますので、特定の誰かについてのサポートをする場合は、相手の特性を理解することが大切です。必要があり、関係者に周知したい場合は、事前に本人の同意を得てから周知を行いましょう。