新しい資本主義計画とリスキリングの関係を解説
6月6日、政府が新しい資本主義を実行するための計画改定案(以下「実行計画改定案」)を公表しました。
本記事では、その実行計画改定案とリスキリングとの関係性について解説しています。
公開:2023-06-19 09:00
実行計画改定案の概要は?
実行計画改定案を要約すると下記の通りです。
ポイント
- 転職しやすい労働市場改革とスタートアップ支援に重点
- 賃上げ持続と成長産業への移動促進が狙い
- リスキリング、市場円滑化、職務給の導入を柱とする
- 個人経由のリスキリング支援を拡充する目標
- 失業給付の早期支給化による市場円滑化を検討
- 終身雇用を前提とした退職金の課税制度改革を進める
- 職務給の導入による労働市場の流動性向上と成長産業への流入促進
- 労働者保護や年金持ち運びの改善策の検討が必要
- ジョブ型雇用の浸透を促す規制緩和を検討
新しい資本主義の実行計画改定案に対する筆者の見解
政府は2023年6月6日、転職の障壁を取り払い、労働市場を活性化させ、成長産業への移動を促すための「新しい資本主義」の実行計画改定案を公表しました。
しかし、転職だけが活発になるだけでは待遇が自動的に改善されるわけではなく、自己投資を進める環境整備も欠かせません。
転職市場の活性化は、デジタルやグリーンなどの成長産業に働く人々を移動させるためのものです。
そのためには、終身雇用を前提とした退職金制度を改革し、転職しやすい状況を作る必要があります。
転職のネックになる退職金制度
労働政策研究・研修機構の推計によると、製造業の大卒総合職が一度転職した場合、同じ会社に60歳まで勤め続けた場合に比べて、退職金が40歳で47.0%減少し、45歳で48.4%減少するとされています。
将来の収入不安が転職をためらわせる原因の一つとされています。
同じ会社で長く働くほど税制上の優遇措置や、自己都合離職の場合に退職金が減額されるなど、民間企業の就業規則が影響しています。政府はこれらの改革に向けた検討を進めています。
改定案では、転職によって賃金が増加する労働者の割合が減少する労働者の割合を上回ることを目指すと明記されています。そのカギとなるのが、次にご紹介する「リスキリング」です。
転職労働者に求められる「リスキリング」
政府がリスキリング支援を加速
労働者が新しい職場でより良い待遇を得るためには、適切なスキルを習得し、成果を出すことが必要です。
雇用調整助成金による休業手当の補填は、30日以上の休業の場合には、原則として新たな技能習得のための教育訓練に重点を置くなど、リスキリング支援を見直す予定です。
転職しやすい環境を整え、個人のスキルを向上させることで、働き手の選択肢が増えます。
日本経済研究センターの試算によれば、大学院進学など自己啓発を行うと、しない場合に比べて次の年の転職の機会が3.7ポイント高まるとされています。
日本のリスキリングの現状
しかし、日本の労働者のリスキリングへの意欲は低い状況です。
パーソル総合研究所の調査によると、自己投資としての社外学習などを行っている人の割合は日本では40%に過ぎません。
一方、米国やインドでは80%、スウェーデンや中国では70%とされており、仕事を通じた成長意欲が高いことが示されています。日本ではスキル向上による満足感が低い傾向にあります。
政府が制度を整えたとしても、労働者が時間や負担を避ける限り、日本経済の生産性向上は望めません。
労働者のスキル習得への意欲が低いのは、時間的な制約が一因とも言われており、働き方改革の推進が不可欠です。
労働力と生産性は必ずしも比例はしない
転職が活発になっても、すぐに生産性向上につながるわけではありません。
特に医療・福祉業界はその典型です。第一生命経済研究所の試算によれば、2001年から2018年までの累積で、この業界に投入された労働力は6割弱増加しましたが、生産性は2割低下しました。
金融・保険業など生産性の高い企業は、IT投資などによる省力化によって生産性を向上させてきました。
日本の成長力を高めるには、転職を後押しするだけでなく、医療・介護など人手のかかる産業のデジタル化などの改革にも取り組む必要があります。
まとめ
これからの資本主義や転職市場に対応するには、「リスキリング」がキーワードになります。政府が積極的に支援をし始めている今は、労働者はリスキリング、企業はリスキリングの支援に取り組み始める絶好の時期なのです。
リスキリングにより「労働者の価値」を高めることは、今後の労働市場でますます求められていくことでしょう。
日本の労働市場において待遇改善と生産性の向上を実現するためには、政府・企業・労働者が一体となった取り組みなのです。