介護福祉士の医療行為・医療的ケアとは?
条件を満たすことで医療行為が行える!
介護施設などで生活する入所者の中には、定期的に痰を取り除く喀痰吸引や、体外から管を通して栄養や水分を投与する経管栄養といった医療行為を必要とする方々がいます。
冒頭でお話ししたように、介護職員である介護福祉士は医療従事者ではないため、基本的に医療行為を行うことは許されていません。
介護職員が医療行為を求められることも
介護施設には医師や看護師が常時いないこともあり、介護職員がこれらの行為を行うことを求められます。
そして、入所者に提供する介護サービスの中心的役割を担うのは介護福祉士なのです。
このような背景から、介護福祉士は一定の条件を満たすことで喀痰吸引、経管栄養の2つの医療行為や医療的ケアを実施できることになりました。
学習内容により医療行為・医療的ケアの流れが変わる
ここで注意しなければならないのが、一口に介護福祉士であるといってもその資格を取得するまでに学習した内容によって、医療行為・医療的ケアを行うことができるようになるまでの流れが変わるということです。
2015年以前の介護福祉士の資格取得者
2015年より前に介護福祉士の資格を取得した方は、「医療的ケア」についての学習が必須ではありませんでした。
そのため、2015年までに介護福祉士の資格を取得した方は、「喀痰吸引等研修」の『基本研修』と『実地研修』の両方を受講する必要があるのです。
2015年以降の介護福祉士の資格取得者
なお、2015年以降に介護福祉士の資格を取得した方の場合も「喀痰吸引等研修」を受ける必要があるのですが、こちらは資格取得に医療的ケアの学習が必須とされているため、『実地研修』だけの受講となります。
この研修を受講して、さらに「登録喀痰吸引等事業者」として登録している事業所において業務に従事する場合には、医師や看護師の指示のもとで喀痰吸引、経管栄養を行うことが可能になります。
なお、「喀痰吸引等研修」の『実地研修』を実施している団体は数が少ないと言われています。
受講機会を逃さないよう、事前に研修スケジュールを確認するのがよいでしょう。
(1)喀痰吸引(かくたんきゅういん)について
それでは、喀痰吸引についてご説明します。
喀痰吸引は、自力で痰を排出することができない方の痰を吸引・除去することで、呼吸をしやすくすること、誤嚥を防ぐことを目的としています。
喀痰吸引をすることで正常で楽な呼吸を促したり、誤嚥の予防をしたりできるのですが、実施中や実施後には下記のようなトラブルが発生することもあるため、十分な注意が必要です。
万が一、トラブルが起こった際には、すぐに看護師へ報告するなど状況に応じた行動が必要です。
注意点
・顔色が悪い
・痰がかたく、吸引が困難である
・痰の色がいつもと違う
・呼吸の状態が悪くなる
・吸引器が正しく動作しない
・出血する
・嘔吐する
(2)経管栄養(けいかんえいよう)について
次に経管栄養についてご説明します。
経管栄養は、栄養を経口摂取(口から食べること)ができないために胃や腸などの消化器官内にチューブを挿入している方へ、管を通して栄養を送り、栄養を摂取してもらうことを目的とします。
経管栄養を実施する場合も、以下のようなトラブルが発生することがあるため、十分な注意が必要です。
トラブルが起こった際には、状況に応じて直ちに看護師に報告するようにしましょう。
トラブルの例
・チューブ等の脱落
・注入液が注入されない
・注入液の漏れ
・痰がからんでいる
・息が苦しそうである
・顔色が悪い
・腹部膨満
・げっぷ
・しゃっくり
・出血がある
・嘔吐する
医療行為を行う際の注意点
医療行為の中には、規制の対象外がある!
そもそも介護の現場において、介護福祉士が行う喀痰吸引と経管栄養以外には、介護職員はどのような医療行為を行えるのでしょうか。
ここでは、介護福祉士に限らず介護職員全体の仕事を見ていきましょう。
医療行為には該当しないもの
以下は過去には医療行為とされていたものですが、今では介護福祉士に限らず介護職員が行うことができるものです。
明確に「医療行為には該当しない」と線引きされたものとなります。
医療行為には該当しない主な事項
・ 体温計を使用した体温測定
・ 自動血圧測定器を使用した血圧測定
・ 酸素濃度測定器の装着(新生児以外で入院治療が必要な患者に対する場合)
・ 鼻腔粘膜への薬剤噴霧の介助
・ 服薬介助(薬を飲ませる行為)
・ 軽い切り傷や擦り傷、やけどなどの処置(ガーゼの交換を含む)
・ 湿布の貼付
・ 軟膏の塗布(床ずれの処置は除く)
・ 目薬の点眼
・ 坐薬の挿入
医療行為であるが行えるもの
また、医師法や歯科医師法、保健師助産師看護師法等の法律上においては医療行為とされていますが、規制の対象外となる行為もあります。
それが以下のものです。
規制の対象外となった事項
・ 爪切り、爪やすり
・ 歯ブラシや綿棒による口腔ケア(歯、口腔粘膜、舌など)
・ ストーマのパウチにたまった排泄物の廃棄
・ 耳垢の除去(耳垢塞栓の除去は除く)
・ 市販の浣腸器を使用した浣腸
・ 自己導尿補助におけるカテーテルの準備・体位保持
これらの医療行為は介護職員が行うことができますが、対象となる要介護者に異常が見られない場合に限られます。
また、中には本人やその家族の同意が必要であったり、医師や看護師の指示が必須であったりするものが含まれているので注意が必要です。
介護福祉士では行えない医療行為がある!
一定の条件を満たすことで一部の医療行為を行えるとは言っても、介護福祉士はあくまで介護職員であり、医療従事者ではありません。
基本的には医療行為が禁止されていることをしっかりと覚えておきましょう。
そして、以下のものは介護の現場で実際に求められることのある医療行為です。
これらは喀痰吸引と経管栄養を行える介護福祉士であっても行うことは禁止されていますので頭に入れておきましょう。
医療行為
・血糖測定
・インスリン注射
・床ずれの処置
・点滴の管理
・摘便
これらの行為が必要となった場合は、看護師に連絡し、対応してもらう必要があります。
介護福祉士であったとしても介護職員が行うと違法行為となるので注意が必要です。
過去、実際にこれらの医療行為を行ったために、警察により書類送検となったケースもあるそうです。
医療行為ニーズの高まり
近年、要介護者の増加、そして看護師不足などを背景に、介護の現場における医療行為のニーズはますます高まってきています。
介護福祉士を中心とする介護職員は、介護の現場でこれまで以上に医療行為を求められることも予測されます。
医療行為の線引きを把握しておく
しかし、介護福祉士や介護職員といった介護のプロであるからこそ、介護の仕事を行う中での医療行為とそうでないものの線引きはもちろん、医療行為であっても規制の対象外とされている行為を明確に覚えておくことが必要です。
また、一定条件を満たした介護福祉士であっても禁止されている行為があるということ、またそれがどのようなものであるかをしっかりと認識しましょう。
医療知識を身につけ、観察を怠らない!
介護の現場で行う医療的ケアは、前述のとおり実際には医療行為に該当しないものや、法律で認められているものなどいろいろな行為があります。
いずれにせよ、介護職員は、要介護者の方にこれらの行為を行うために必要な分野の医療知識を身につけておくことが必要です。
また、常に心がけるべきことがいくつかあります。
ここでは具体的なポイントを2つご紹介します。
他職種との連携を大切にする
医療的ケアを行う場合には特に、その対象者の観察を怠らないようにする必要があります。
もし、異常を感じた場合は速やかに医師や看護師に連絡をする必要があるからです。
普段からしっかりと対象者の様子を観察しておくことで、小さな変化や異常にも気付くことができるでしょう。
また、何かあった場合すぐに医師などに連絡ができるよう、連携体制を整え常に準備をしておくことが大切です。
医療知識を身につけておけば、小さな異変・症状にも気づくことができたり、医師などに具体的で適切な報告ができたりと、対象者の安全にもつながるのではないでしょうか。
感染予防に努め、安全なケアを心がける
医療的ケアを行う場合は、感染予防への意識をしっかりと持つことも重要です。
ケアの前後には手洗いを入念に行い、医療的ケアを受ける方はもちろん、行う側である介護職員も感染症のリスクから守りましょう。
手洗いは感染予防の基本です。
何度も繰り返す慣れた行為であったとしても、常に基本に忠実に、安全なケアを提供できるよう心がけることが必要です。
まとめ
ここまで、介護福祉士が行う喀痰吸引や経管栄養といった医療行為について、また介護福祉士でなくとも介護職員であれば行える医療行為・医療的ケアについていろいろとご紹介してきました。
医療知識を身につけておく
介護の中で行う医療行為・医療的ケアには、直接生命の維持に関わるもの、健康を維持するために必要なものなどさまざまな種類があるため、介護福祉士・介護職員は医療従事者ではなくとも自らの仕事に関連する医療知識を身につけておくことが必要です。
利用者を観察をし、小さな異変に気付く
利用者の方々への注意や観察を怠らず、小さな異変にも気づくことができるようにし、何か異常があった場合は、速やかに医療機関などに連絡をすることができる体制を整えておくことで、利用者の方を守ることができます。
また、介護を受ける利用者の方だけでなく、医療行為、医療的ケアを行う介護者自身をも感染症などから守ることで、介護施設全体の安全を守ることにもつながるでしょう。